日本財団が行う「日本財団A-MAP奨学金」とは、HEROs ACADEMYの一環として立ち上げられたアスリート人材育成のための奨学金事業です。

A-MAP(一般社団法人APOLLO PROJECT提供)とは、アスリートを対象としたプログラムで、実践・対話・内省の3つのアプローチを通じたマインドセット(気づき)を重要な学びとし、集合研修や講義視聴に加え、一般のビジネスパーソンとの議論など、様々な機会を提供しています。加えて、専属のメンターが一人一人のキャリア相談に乗るなど、学び以外のサポート体制も充実しています。

一般社団法人 APOLLO PROJECT /A-MAP

大野均さんは元ラグビー日本代表選手で、42歳まで現役として活躍されていました。日本代表として日本歴代最多出場回数を記録しており、ワールドカップへも3度出場しています。引退した今、「何か学びたい」という思いで参加を決めたと言います。

元力士の大西雅継さんは、現在親方として弟子の指導に励んでいます。A-MAPが指導にも活きることがあると期待して参加したそうです。

最前線でアスリートとして活躍してきた彼らは、A-MAPを通じてここまで何を感じ考え学んできたのでしょうか。また彼らが感じるアスリートが持つ力とは何か、お伺いしました。

「A-MAPだから広がる世界がある」

ーはじめに、A-MAPについて知ったきっかけを教えてください。

大野:A-MAPを運営しているAPOLLO PROJECTの専務理事を務めている廣瀬俊朗さん(元ラグビー日本代表キャプテン)が所属していた東芝ブレイブルーパスの後輩で、紹介してくれました。当初は明確に学びたいことは見えていなかったのですが、説明を聞いて興味を持ち応募しました。

もともと、「何か学んだ方がいいな」とは考えていて。引退後、チームメイト以外との関わりも増える中で、自分からはラグビーの話しかできないなと。ラグビー界隈以外の方ともしっかり会話できるようになりたいと思ったのが最初の動機です。

大西:私は理事の白崎雄吾さんと繋がりがあって、A-MAPを知りました。すでに親方としてのセカンドキャリアを歩み始めていた中、自分自身のキャリアをさらに充実させたいなと。また、弟子のセカンドキャリアにも落とし込める部分があればと思い参加させていただきました。

正直に言うと、私は相撲以外に興味のあるものがなかったんです。というのも、なかなか社会の外に目向ける機会がなくて。A-MAPの話を聞いた時は「何か新しいきっかけが生まれたり、自分の人生の役に立つだろうな」と思いました。

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現役時代の大西雅継さん
<写真:本人提供>

ーぼんやりとでも、「こういうことが知りたい、学びたい」ということはあったのですか?

大野:1期生の仲間、講師、メンターの方など、今まで自分が接点を持たなかったような方々と交われること自体に期待をしていました。交流を通じて、自分の中で新たに見えてくるものもあるのではないかと。

大西:大野さんと全く同じです。A-MAPだからできる繋がりで得られるものは必ずあるだろうと思いました。あとは「1期生である」ことにも魅力を感じていました。まだ誰もやったことがない、自分たちから始まるんだ、と。

ー現役時代にセカンドキャリアについて考えることはありましたか?

大野:42歳まで現役を続ける中、自分よりも若い選手がそれぞれやりたいことを見つけて引退していくのを見て、単純にすごいなと思っていました。最近だと選手自身のSNS発信も増えましたし、やりたいことを実現していく若い世代をずっと見てきました。だからこそ、ざっくりとですが自分も「引退後も頑張っているな」と思われる存在になりたいな、と。

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現役時代の大野均さん
<写真:本人提供>

ー相撲界では、どうでしたか?

大西:体力面やメンタル面で引退が現実味を帯び始めてから次のキャリアについて考える人が多かったです。親方が弟子のセカンドキャリアについてきっかけを与えることも、この世界ではあります。預かる際に親御さんが心配なさらないように、そういったことに取り組んでいる親方が多いんです。

大野:われわれが若手選手だった時代は、まだ「選手は自分の競技に集中するべきだ」という風潮がありましたよね。昔と比べると今は周囲からの見方もかなり変わったと思います。

スポーツを通じて、地域に貢献できる活動を

ープログラムの中で、最も興味を持ったものは何でしたか?

大野:私は、「イノベーションと社会」という講義です。世界中の現在の最先端のモノやサービスなどを紹介している映像講義なのですが、14回全てがとても興味深いものでした。サーキュラーエコノミー(循環型経済)や次世代のモビリティ、女性特有のフェムテック、食糧問題など。世界で何が起こっていて、最先端ではどのような研究が行なわれているのかを知ることができました。

大西:僕は講義が苦手で(笑)。メンター制度がとても良いと感じています。

例えば私の場合、メンターと一緒にコーチングブックを作成しています。今まで自分がやってきたこと、弟子に対して今後やっていきたいことを整理していて。それを元に、今まで自分の指導の中でやったことがない取り組みを取り入れています。自分のコーチングを振り返る良い機会ですね。

ー大西さんは指導にあたってどういうことを意識されているんですか?

大西:私がアドバイスして「わかりました」で終わる一方的な指導ではなくて、弟子がわからなかったら聞きに来てくれる関係性を作っていきたいと思っています。“なぜやるのか”が伝わるようにしたい。ただ闇雲に「押せ」と教えるのではなく、まずは好きにやらせてみる。そうすると、やっていく中で押すことの重要性を自然と学びます。

相撲界は伝統に固執してしまう部分も少なくありません。でもいろんなことを吸収しながらやっていくべきだと思っています。個人的にめちゃくちゃラグビーが好きで。ラグビーから学んでいることも多くあるんです。

大野:そうなんですか?(笑)

大西:はい。ラグビーチームの練習に、弟子を連れて体験させていただいたことがあるくらいです。相撲よりも戦術がたくさんあって、かなり頭を使ってプレーするスポーツですよね。頭の使い方もそうですし、体の使い方も異なるので吸収できることが多いと感じています。

人を惹きつけられるからこそ、届けるべきメッセージがある

ーアスリートだからこそ、社会に向けて発信できるメッセージもあると思います。どういったことが強みだと思いますか?

大野:講義の中で学んだことでもありますが、アスリートには「アンプ効果」と「ボンド効果」があります。アンプ効果は人を惹きつける力で、ボンド効果は発信する力。アスリートの強みのひとつだと思います。

私自身現役の頃は「いかに自分のパフォーマンスを伸ばすか」に集中して競技に取り組んでいました。でも引退して外から見る立場になって選手を見ていて、「こいつらすごいことやっているな」と。ラグビー以外の自分の思いもしっかり発信したら、ついてくる人も多いだろうなと感じています。

大西:アスリートが発するメッセージの強さは私も感じています。私は現役中に事故に遭い右足に障害を抱えました。その際、パラリンピアンの方の話を聞いて、誰の応援よりも一番前を向くことができたのを覚えています。

ある時、白血病で入院している相撲好きな子がいるとファンレターをいただきました。お見舞いに行ったら、その子がすごく元気になるのを目の当たりにして。自分の相撲を見て勇気づけられている人がいるのを実感しましたし、逆にその姿を見て励まされました。これがスポーツの魅力だし、持っている力なのかなと。

ー今後はご自身の中で興味がある社会課題について調べていく時間もありますよね。今後考えていきたい、やっていきたいことを教えてください。

大野:私は福島県出身なのですが、地元のためにスポーツを通じて何かできないか考えていきたいです。

大西:相撲の普及に力を入れていきたいですね。子ども向けの相撲教室など、僕も地域と密着した活動がしたいと思っています。相撲を活かして何ができるのかを模索したいです。

大野さん、大西さんの今後のご活動に注目です!


A-MAP奨学生、木村貴大さんと浅川隼人さんの記事もぜひご一読ください!

競技だけやるのがアスリート?浅川隼人と木村貴大が考えるアスリートのあり方