<トップ写真右側(浅川隼人選手):本人提供>

日本財団が行う「日本財団A-MAP奨学金」とは、HEROs  ACADEMYの一環として立ち上げたアスリート人材育成のための奨学金事業です。

A-MAP(一般社団法人APOLLO PROJECT提供)とは、アスリートを対象としたプログラムで、実践・対話・内省の3つのアプローチを通じたマインドセット(気づき)を重要な学びとし、集合研修や講義視聴に加え、一般のビジネスパーソンとの議論など、様々な機会を提供しています。加えて、専属のメンターが一人一人のキャリア相談に乗るなど、学び以外のサポート体制も充実しています。

一般社団法人 APOLLO PROJECT /A-MAP

日本財団A-MAP第1期奨学生である現役アスリートの奨学金申請に至った背景や現在の活動についてお伝えします。

今回取材したのは、J3・ロアッソ熊本の現役サッカー選手 浅川隼人選手と、ラグビートップリーグ 東京サントリーサンゴリアス所属の木村貴大選手。

浅川選手はアスリート食堂を経営したり、スパイクプロジェクトを展開したりと、さまざまな分野から「夢を追い続けられる環境を作りたい」と活動されています。

木村選手もオフフィールドで幅広い活動をされています。クリニック開催をはじめとするラグビーの普及活動や、ラグビー英会話紹介アカウントの開設など、ラグビー界を盛り上げるために奮闘しています。

A-MAPでの活動は、彼らにとってどのようなものだったのでしょうか。感じたことや学んだことに加えて、現役アスリートとして感じるアスリートの価値について迫りました。

きっかけは現場。スポーツを通じて伝えたいことができた

ーA-MAPについて初めて聞いた時、どのような印象でしたか?

木村:僕がA-MAPと出会ったのは、無所属のラグビー選手となり、活動の幅を広げるためにも人に会いまくっていた時期でした。「面白い!」と感じたモノはすぐにやりたくなるタイプなので、飛びつきました(笑)。
ただ、フリーでラグビーをやっている中で88万円という受講料を支払えるのかと不安になって。その時にA-MAPの方から隼人の存在を耳にしたんです。僕に似たタイプのサッカー選手がいて、彼はもう参加を決めた、と。

浅川:僕も、「面白いやつがいるよ」と聞いていました(笑)。実際に会ったのは、A-MAPの活動が始まってからでしたが。
A-MAPに参加する以前からサッカー以外の活動をしていたのですが、褒めていただくことが多かったんです。「いろいろやっていて、すごいね」と。自分の中では常に褒められつまらなく感じてきていた部分もあり、違う環境に身を置くことで新たな学びや刺激があるのではと思い参加を決めました。木村くんもそうだと思うのですが、他の人がやっていないことに興味を持つことが多くて。

木村:確かにそうですね。お互い少し異質なタイプですよね(笑)。

ーお二人ともさまざまな活動をされていますが、競技以外での活動に興味を持ったのはいつ頃だったのですか?

浅川:大学2年生の時でした。サッカー選手としての夢が、目標に切り替わった時期でもあります。「子どもたちに夢と希望を与えたい」という思いがあって、そのためには影響力を持てるJリーガーになる必要があると考えていました。でも、サッカー以外にもアスリートとして規範になる活動や行動をしていくべきだなと。

ーサッカー以外に目を向けるようになったきっかけがあったのですか?

浅川:4年生が卒業していくのを見て、いろんな選択肢があることに気づきました。Jリーガーになる人もいれば、一般就職する人もいましたし、企業でサッカーを続けながら働く人もいて。「自分はサッカーだけやれれば良いのか?」「どこの舞台で戦っていきたいのか?」ということを考えるようになりました。

ー大学2年生の時点で、将来についてそこまで考えられている選手は少ないように思います。

浅川:そうですね。周りにもいなかったです。でもオランダやオーストラリアなど海外では、もっと早い段階でキャリアについて考えるみたいで、13歳くらいで現実を突きつけられるらしいです。「プロになる人の割合はこれくらい。あなたは今このレベル。本当になれるのか?」と。もっと早く自分のキャリアと向き合っていれば、また違った今があったんじゃないかとは僕自身思います。

2年前にセブ島でサッカー教室のボランティアに参加したことも、今の活動に繋がるひとつの大きなきっかけでした。スラム街の子どもたちに夢を聞いても、答えられない子がたくさんいました。「環境が整わないと夢は持てない」と実感しましたね。そこから〝夢を追い続けられる環境をつくる〟という夢に向かって、スポーツ×食、スポーツ×福祉など、いろんな活動を始めました。

画像4
セブ島での活動時の写真<写真:本人提供>

ー木村さんはどうだったのですか?

木村:僕は隼人ほど早くなくて、社会人1年目です。大学を卒業してトップリーグへ入り、アスリートが持っている力に気づかされたんです。

行政を巻き込んで、地元・福岡県の北九州市で「夢スポーツ授業」というものを実施しました。僕がかける言葉のひとつひとつが、子どもたちに響いていたんです。すごく力のある言葉なんだなと実感しました。彼ら彼女らの姿を見て、逆に僕がパワーをもらうこともありました。地元に限らず活動を広げていって、多くの方にパワーを与えたいと思うようになりましたね。

画像2
画像2
木村さんの幼稚園・学校訪問の様子<写真:本人提供>

自分と向き合い、仲間と成長できる場所

ーお二人は、ロールモデルのような「かっこいい」と思うアスリートはいるのですか?

木村:本田圭佑選手です。「サッカーを使って誰かのためになりたい」というのがすごく伝わってくるんです。かっこいいというより、純粋に本田さんのようなアスリートになりたいですね。ただ影響力がある選手ではなく、アスリートとしての影響力を活かして僕も誰かのためになりたいです。ただ見すぎると寄っていってしまうので、「自分が何をしたいのか」はブレないようにしています。

浅川:本田選手に加えて、中田英寿さんが魅力的だと思います。きっぱり現役をやめたところがすごいなと。自らサッカー選手としての人生に終止符を打って、次のキャリアに突き進んでいく潔さ。自分の軸をしっかり持って活動や発信をされているところが素敵だと感じています。

どこまで頑張ったとしても、サッカー界では三浦知良さん(カズさん)のNo2にしかなれない。でも違う土俵なら、肩を並べられるチャンスがあるのではないかと思っています。新しいサッカー選手像を築いてきたいですね。

ーA-MAPの活動の中で、最も印象に残っているものはありますか?

木村:最初の3ヶ月間に行なった「360度サーベイ」という自己評価・他者評価の取り組みです。他の1期生や講師の方が自分についていろいろと言ってくださるのですが、もう泣きそうになりましたね(笑)。自分でも理解はしているけど、触れたくない部分に入り込まれるんです。これまでないくらいに自分と向き合いました。辛かったですが、人生変わったなと感じます。

ーどういうところが変わったと感じますか?

木村:一番は、相手の立場になって考えることです。僕は昔から一方的に話してしまう性格で。問いを投げかけることで相手に考えてもらう時間を作る、否定から入らないなど、当たり前ですができていなかったことができるようになりました。

浅川:「360度サーベイ」は良い学びができたと僕も思っています。自分の現在地を確認できたというか。特に僕らの場合はすでに活動を始めていたので、今自分たちがいる地点を改めて確認することは次のステップに向けて必須だったんですよね。

講師にJリーグの村井満チェアマンが来てくださったことがあり、講義後に連絡をしたら面会の時間を設けてくださったんです。Jリーグの目指す先や今後どのような選手が求められるのかなど、たくさんお話することができました。その中で自分ができることややっていきたいことも見えたので、とても貴重な時間でした。

A-MAPは学びの場でもあるのですが、幅広い繋がりができるのもひとつの魅力だと思います。講師の方との繋がりもそうですし、同じスポーツ界を盛り上げていく仲間として横の繋がりもできました。

ー「仲間」という言葉がありましたが、どういった選手が増えて欲しいと思いますか?

浅川:サッカー選手として、何かを“表現”できる選手ですかね。サッカー選手であることが、自分のキャリアの中でどういった存在なのか明確に持てている選手が増えたら嬉しいですね。

木村:アスリートが持っている影響力は、想像しているよりも遥かに大きいことに気づいて欲しいです。アスリートとしての影響力がどれほど使えるのか、と。特にラグビーは企業スポーツの文化がまだまだ根強く、例えば幼稚園での普及活動など、会社から頼まれて仕方なくやる選手も多いです。

「何から始めたら良いのかわからない、どうしたら良いのかわからない」と言う選手も多くいます。ツイートしたら反響はあるけど、「どういうことを伝えていけば良いのかがわからない」と実際に日本代表の選手が口にしているのも聞いたことがあります。この現状を変えていきたいですね。

“アスリート”を100%発揮する、仲間へ

ー今後、さらに勉強していたいと思っていることはありますか?

木村:今はファンマーケティングとSNSマーケティングですね。どういうファンがいたらどう良いのかやファン心理について、調べていたら面白くなってきて。

浅川:僕もマーケティングは興味があります。今までなんとなく感覚として感じてきたことを、言語化して自分の技として習得したいです。
A-MAPで学んだことを、後期はさらに解像度をあげていって、自分たちの活動をさらにレベルアップさせていきたいと思っています。

ー最後に、2期生に向けてメッセージをお願いします。

浅川:A-MAPに限らず、自分がどれだけ主体的に学べるかが重要だと思います。自分の中で何のためにやるのかをしっかり整理した上で取り組めば、1年後はきっと全く違った世界が見れるのではないかと。1期生との繋がりも作って、一緒にスポーツ界を盛り上げていけたら嬉しいです。

木村:「あなたは普通で良いんですか?」この問いを自分自身に問いかけてみてください。僕も、この言葉をきっかけにA-MAPに参加を決めました。「普通のことをしていても、普通の人にしかなれないよ」と。僕は一歩踏み出し参加して、大袈裟ですが人生が変わりました。悩んでいる方がいれば、ぜひこの問いを考えてみて欲しいですね。