著者:瀬川泰祐

2020年のスポーツ界は、これまで以上に多くの社会貢献活動が生まれた年となった。
先行きの見えない社会情勢の中、アスリートたちが社会の課題に向き合う姿は、人々に勇気を与え、多くの気づきをもたらした。
彼らの力強い発信に牽引されて、寄付や支援など、さまざまな形で活動に協力した人も多かったことだろう。

それらの社会貢献活動は、どれも素晴らしいものばかりだったが、
その中からHEROs審査委員会に高く評価され「HEROs AWARD 2020」で受賞を果たした4つの活動を紹介する。
1回目となる今回は、「HEROs OF THE YEAR」を受賞した本田圭佑選手の
「AFRICA DREAM SOCCER TOUR supported by SHOWA GLOVE(以下:アフリカドリームサッカーツアー)」に迫ってみたい。

本田圭佑がアフリカで見た現実

サッカー元日本代表の本田選手が実業家としての顔をあわせ持っているのは、すでに多くの人がご存知のことだろう。
2012年にスタートした「SOLTILO FAMILIA SOCCER SCHOOL」を国内屈指のサッカースクール事業者に成長させたほか、
スポーツ施設の運営、海外プロサッカークラブの経営など、スポーツに関連する事業を多角的に展開している。
また昨年には、月額1ドルで好きなだけ学べる学生のためのオンラインスクール「Now Do」を開校したことは記憶に新しい。

そんな本田選手がアフリカドリームサッカーツアーを行うきっかけとなったのは、2017年6月のこと。
国連財団の活動の一環としてウガンダへ訪問した本田選手は、
その日を生きることだけで精一杯の貧しい子どもたちと一緒にサッカーをしながら、「スポーツを通じて夢や希望を持ち続けてほしい」という思いに駆られた。

「スラムに生まれたものはスラムで死ぬ」という言葉があるように、生まれてきた環境で人生が決まってしまう不平等な世界。
この時の訪問をきっかけに、本田から二村へ想いが託され、
「子どもたちにサッカーを通じた自立のきっかけを提供する」という目的のもと
同年12月に「AFRICA DREAM SOCCER TOUR」がスタートしたのである。

プロジェクト発足直後の危機

このプロジェクトの大きな特徴は、社会の課題に取り組む活動でありながら、事業性をしっかり追求していることにある。

プロジェクト発足初年度は、スポンサー企業からの支援をベースに、
ケニア・ウガンダ・ルワンダの3カ国に指導者を派遣し、現地の子どもたちに無料のサッカースクールを通して、
“プレーする機会”を提供することからスタートした。
同時に、事業としての継続性を高めるため、そこで優れた才能を持つ選手を発掘し、
“サッカーアカデミーに入団させる機会”を与え、移籍金などの収益を得て、サステナブルな活動に昇華させることを目指した。

こうして社会性と事業性の両立を目指してスタートしたプロジェクトだったが、当初は思うように進まないことも多かったという。
初年度は、1000人以上の子どもたちにサッカーをプレーする機会を提供したが、
プロサッカー選手になれるような優秀な人材はなかなか発掘することはできず。
当初の目論見がはずれ、事業の継続性を問われることとなった。
その当時の様子を、プロジェクトを推進してきた二村氏は次のように語る。

「自立した事業を行うことは本田から常に言われていました。しかし、成果はゼロに近い。
人材が発掘できなければ、活動を継続することはできませんので、方向転換をせざるを得ませんでした」。

事業性の追求が生んだ方向転換

現在、アフリカドリームサッカーツアーは、
本田選手の発信力と二村氏のプロジェクト推進力が融合し、様々な企業をパートナーに迎えることに成功している。彼らは、うまくいかなかった初年度から、わずか3年足らずで、どのようにしてプロジェクトを成功に導いたのだろうか。

プロジェクトが存続の危機を迎えた中、彼らが活路を見出したのは、「サッカー以外のこと」だった。
これまで提供していた2つの機会に加え、“サッカー以外の才能育成の機会”を創出し、
パートナー企業と共に夢への選択肢を増やし、自立をサポートすることにしたのである。
例えば、プログラミング教室を開催してプログラマーへの道を提示したり、日本料理屋で和食作りを体験させ、
料理人への道を提示したりした。また、パートナー企業の強みを活かして、船舶関連の職業体験を用意し、
企業の人材不足という課題への解決をも図りながら、プロジェクトの価値を高めていった。

この取り組みで興味深いのは、すべての子どもたちにその機会を与えたわけではないということである。
アフリカドリームサッカーツアーでは、サッカーを“人間性を図るためのツール”として捉え、
「練習前のゴミ拾いを積極的に行っているか」「人の話を聞くことができるか」といった評価ポイントに沿って
子どもたちの人間性を見極め、認められた子どもたちから優先的に職業体験の機会を提供しているのだ。

これにより、パートナー企業にとっても単なる社会貢献のサポートというだけではなく、
優秀な人材の確保という企業の課題解決に繋げることが可能となった。
こうして今では、活動に賛同する8社のパートナー企業と共にプロジェクトを進めるまでに発展した。
パートナー企業の中には、カンパニープレゼンスを高めることを目的に、自ら志願してきた企業もあったという。

アフリカで創出した価値を国内へ

新型コロナウイルスの影響により、海外への渡航が制限されたいま、彼らは、
日本においてアフリカと同趣旨の「JAPAN DREAM SOCCER TOUR(以下:ジャパンドリームサッカーツアー)」
というプロジェクトをスタートさせた。このジャパンドリームサッカーツアーでは
児童養護施設で生活する子どもたちや、様々な事情を抱えた18歳未満の子どもとその母親を保護し、
自立の促進のために生活を支援する母子生活支援施設に通う子どもたちに対して毎週無償でサッカーを指導し、
そこで発掘した優秀な子どもや熱意を持った子どもを国内で展開するSOLTILOのサッカースクールで受け入れる
といった活動を行っている。さらにはサッカー以外にも、アフリカドリームサッカーツアーと同様に、
子どもたちのやりたいことや夢についてヒアリングをした上で、さまざまな職業体験の機会を提供している。

このように3年という月日をかけ、方向転換しながら事業継続性を確保しつつある二村氏は、HEROs AWARDの授賞式の際に、
「将来的にはアフリカ全土での実施を目指したい」と今後の展開を語った。
また、授賞式にビデオメッセージで参加した本田選手は、
「選手以外での活動でも皆さんに喜んでもらえるような活動を増やしていきたい」とこれまで以上に、社会貢献活動に取り組む姿勢を口にした。

自身初のオリンピック出場という目標を掲げながら、さまざまな事業を展開する本田選手。
今後、自らの夢の実現と子ども達の将来のサポートをどのように両立させて行くのか、
しばらく本田選手の動向から目が離せなそうだ。

なお、本記事の最後に、読者の皆さんに、社会課題解決に向け以下のようなアクションを行うことを提案させていただきたい。
読者の皆さんの小さな行動の積み重ねが、いつしか大きな渦となり、社会を変えていくはずだ。

  1. この記事をSNSで拡散する
  2. アフリカの子どもたちがどのような環境の中で生活しているのか調べてみる
  3. 日本の児童養護施設や母子生活支援施設で生活する人々が抱える課題について調べてみる
  4. 社会課題解決のための募金やクラウドファンディングに協力してみる。