日本財団 HEROsは、Google『Project Guideline』とパートナーシップを締結しています。

『Project Guideline』とは、視覚障がいのあるランナーのために、Google が開発を進める研究開発プロジェクト。Google AI をもちいた音声アシストにより、視覚障がいのあるランナーが自由に一人で走ることを目指しています。もともと米 Google で始まったプロジェクトですが、日本にも上陸。健常者だけでなく、視覚障がいのある当事者をメンバーに加え、実用的な技術開発に向けた研究が、日々行われています。

https://projectguidelinejp.withgoogle.com/

HEROsは、「未来を担う子どもたちにも、Project Guideline を体験してほしい」という思いに応えるべく、筑波大学附属視覚特別支援学校との体験イベントを開催し、視覚障がいのあるパラアスリートを派遣。最先端のテクノロジーを体験すると同時に、アスリートとの交流の場を創出しました。

Google の“テクノロジー”とHEROsの“ネットワーク”。それぞれの異なる強みを生かしたパートナーシップによって生み出される新たな価値とは。Project Guideline プロジェクトメンバーの鈴木庸介(すずき・ようすけ)さんと、同じくプロジェクトメンバーであり、自身も視覚に障がいのある田丸敬一郎(たまる・けいいちろう)さんに、HEROsとの取り組みを通じて得られたメリットについて伺いました。

取り組みの概要

―まず、『Project Guideline』の概要を教えていただけますか?

鈴木:Project Guideline は、視覚に障がいのある方が一人で自由に走ることを可能にするための研究開発プロジェクトです。

もともとは、全盲のランナーで、盲導犬育成のNPO『Guiding Eyes for Blind』の CEO も務めている Thomas Panek さんの言葉がきっかけでした。

Google が主催したイベントに参加した Thomas Panek さんが、「視覚障がいのあるランナーが一人で走るために、Google のテクノロジーを使ってできることはないだろうか?」と問いかけたんです。その一言から、Google は視覚障がいのあるランナーが自由に走るための技術開発を始めました。

―もともとはアメリカで始まったプロジェクトだったのですね。お二人は、どのような役割を担っているのでしょうか?

鈴木:私は、主にクリエイティブやテクノロジーの検証を担当しています。

田丸:プロジェクトが日本に導入された際、視覚に障がいのある当事者として実験に参加させていただきました。その後、実際に視覚障がい者にとって使いやすいプロダクトを生み出すために、プロジェクトの一員として参加するようになりました。

―プロジェクトに当事者が参加することで、どのようなメリットがあるのでしょうか?

田丸:無駄を削ぎ落し、より実用的なサービスをつくることができます。

多くの商品やサービスは、「こんなものがあったら便利かもしれない」というアイデアから生まれます。しかし、いざ使ってみると「もっとこうしたほうがいいのに」と思うことも多々ありますよね。

企業の多大なリソースをかけて完成したものがそれではもったいない。当事者が関わることで、リソースの有効活用にも繋がります。障がい者支援などの社会課題は、とくにニッチな分野なので、当事者の関与がすごく重要です。

―当事者でないと分からないこがたくさんあるということですね

田丸:そうですね。視覚障がい者体験などがありますが、決して追体験にはならないと考えています。健常者の方がアイマスクを付けて街を歩くのは、もちろん怖い。ただ、その怖さと、視覚障がい者であ鈴木:プロジェクトのなかで、健常者と当事者における感覚の違いを実感した出来事があります。田丸に実験してもらう前に、私たち健常者だけでテストをしたんです。る私たちが感じている怖さは、まったく違うものなんです。

その時は、全員が「これで走るのは絶対に無理だ」と口をそろえるくらい使いこなせなかった。でも、そう感じるのは、私たちが視覚に頼って行動しているからです。普段から聴覚を駆使して生活している田丸の感想はまったく違いました。

田丸:「使いやすいツールだな」という印象でした。視覚障がい者は、訓練やリハビリを経験しているので、目が見えない状態で歩くことに慣れています。健常者とは、慣れるスピードや感じ方が異なると思います。

鈴木:このプロジェクトの発端も、視覚に障がいのある Thomas Panek さんの言葉でした。目が見える人間だけでは、見落としてしまうものがたくさんあります。当事者が、プロジェクトの一員である重要性を痛感しています。

「単なる体験会ではない」。子どもたちが将来を考えるきっかけに

―HEROsとの取り組みは、どのような経緯で始まったのでしょうか?

鈴木:HEROsにパートナーとしてご協力いただいた背景には、「大人だけではなく、未来を担う若い世代にも、Project Guideline を体験してもらうべきではないか」という思いがありました。

HEROsプロジェクトでは、アスリートと子どもたちが交流する場が生み出されています。そこに Project Guideline の体験会を組み込めないかと思い、お声かけさせていただきました。具体的な活動としては、筑波大学附属視覚特別支援学校との体験会です。HEROsから、パラ柔道の初瀬勇輔(はつせ・ゆうすけ)選手を派遣していただきました。

―参加者の方は、どのような感想をお話されていましたか?

鈴木:「新鮮で、楽しかった」と言っていただけました。普段から運動をしている子どもたちが参加してくれたのですが、一人で走る経験はほとんど無いとのことです。あとは何よりも、初瀬選手との交流ですね。

―ただ体験するだけではない、と。

鈴木:パラアスリートというだけではなく、同じ視覚障がい者として、どのように自己実現をしていくのか。成功や挫折まで、自身のさまざまな経験を子どもたちに伝えていました。

子どもたちも、たくさん質問をしていましたね。単なる体験会ではなく、子どもたちが将来を考えるきっかけをつくることができたのは、HEROsから初瀬選手を派遣していただけたからこそです。

―さまざまな経験をしてきたアスリートの言葉は響きますよね。

田丸:視覚障がい者にとって、さまざまな自己実現の形を知ることは大切です。障がい者の世界は、すごく狭い。自分ができることは何なのか、健常者との違い、これからどう生きていくのか……分からないことがたくさんあります。同じ境遇にいながら活躍しているパラアスリートと触れ合うことで、子どもたちが自身の将来を考えるきっかけになったと思います。

スポーツ×テクノロジーで、より良い社会へ

―Google は、IT 企業の社会貢献について、どのように捉えているのでしょうか?

鈴木:Google のミッションは、「世界中の情報を整理し、世界中の人がアクセスして使えるようにすること」です。創業以来、テクノロジーには社会をより良くしていく力があると信じて活動していますし、その責任があります。社会貢献とビジネスを分けて考えることはしていません。テクノロジーの力で、一人ひとりの生活、人生をポジティブに変えていく。すべてのサービス、プロダクトの出発点は同じです。

― Project Guideline も、その一つということですね。自由に好きなところを走れるようになれば、視覚障がい者の方の生活や人生が変わります。

鈴木:自立した感覚を得てもらえるのではないかと思います。普段からガイドランナーとマラソンを走っている方は、「まったく違う体験だ」とおっしゃいます。

信頼関係のもと、二人の力を合わせてゴールを目指すのが、ブラインドマラソンの醍醐味。一方で、Project Guideline を使えば、自分の走りたい距離を好きなペースで走ることができる。「自分が思うがままに走ることができる」というポジティブな実感を得られるのも、 Project Guideline がもたらす大きなメリットです。

田丸:IT によって私たちの生活は劇的に変わりました。インターネットが誕生して、今まで手に入らなかった情報に触れ、できることも増えました。

例えば、カーナビが登場したときは、「これで道が分かるようになるかも」と。障がい者向けに開発されたものではなくても、私たちの生活が変化したり、希望を持てる可能性は十分にあります。

視覚に障がいのあるランナーに向けて開発されている Project Guideline ですが、走ること以外にも活用できるかもしれません。これまで誰かと一緒でなければ歩けなかった人が、一人で歩けるようになれば生活は一変しますよね。いろいろな可能性を秘めたツールだと思います。

鈴木:Project Guideline を出発点として、より多くの人の生活を変えるイノベーションが生まれる可能性を信じています。

例えば、音声文字認識機能は、もともと聴覚に障がいのある方に向けて、周りの人が話していることを理解できるように開発されたサービスです。しかし、今では様々な会議や取材の場などでも、活用されていますよね。最初は一部の人だけに向けたプロダクトかもしれませんが、最終的に企業の生産性を向上させたり、多くの人の役に立っています。私たちの想像していないところで役に立つ可能性も十分に考えられます。

―活用の幅を広げるためにも、アスリートの協力は心強いですね。

鈴木:Google のテクノロジーと、日本財団さまが培ってきた障がい者支援の知見や、アスリートとのネットワーク。両者の強みを組み合わせて、社会により良い影響を与えられる取り組みを展開していきたいと思います。

HEROs AWARDは、スポーツやアスリートの力が社会課題解決の活性化に貢献していることを社会に周知することで、活動を応援、また共に活動してくれるファンを増やし、社会貢献活動をより多くの人々が取り組むようになることを目指し実施しております。
https://sportsmanship-heros.jp/award/

本取材は、ステークホルダーとHEROsのかかわりを紹介するために実施されました。
HEROsプロジェクトに関してはこちらのデジタルパンフレットをご確認ください。