著者:瀬川泰祐

スポーツと社会問題の関わりは、アメリカ・NBAやイングランド・プレミアリーグが、黒人差別への反対運動
「Black Lives Matter」に賛同したことが記憶に新しい。
テニス界でも全米オープンに出場している大坂なおみ選手がマスクを使って人種差別に抗議する姿勢を表明するなど、
スポーツ界からの発信は、多くの人々に社会問題を考えるきっかけを与えている。
また、日本でもJリーグが社会課題に地域と連携して取り組む「シャレン!」をスタートさせるなど、
スポーツ界が社会問題に取り組もうとする動きは少しづつ活気を帯びてきた印象だ。

そんな中、8月12日に、note株式会社により
社会問題を解決するスポーツの力を考える』をテーマにしたオンラインイベントが開催された。
このイベントには、Jリーグ・浦和レッズに所属する長澤和輝選手、
そしてHEROsプロジェクトからは、プロジェクトコーディネーターを務める植木美保子と、
公式スポーツライターを務める瀬川泰祐の2名が登壇し、
スポーツ界が取り組む社会貢献活動について、熱いトークが展開された。

「スポーツで繋がる生きたコミュニティの力」が発揮された事例

HEROs公式スポーツライターを務める瀬川泰祐

イベントの冒頭では、瀬川より、スポーツ界の社会貢献活動の事例が紹介された。
スポーツというフィルターを通して社会問題を取材している瀬川は、自らの経験を踏まえて
「地域社会の中に生きたスポーツコミュニティがあること」の重要性を説きつつ、
そのコミュニティが大きな力を発揮した一例として、
元サッカー日本代表の巻誠一郎さんが行っている、熊本県の被災地復興支援活動を挙げた。

巻さんは地震発生直後からSNSを通じて現地の情報を発信し、周囲に対して支援を求め続けた。
その発信がきっかけで、全国から大量の救援物資が届けられた。さらに復興支援のための募金サイトを立ち上げたり、
避難所の子供たちにスポーツ環境を提供するなど、様々な手法を使って熊本の復興に力を尽くした。
アスリートが持つ発信力や周囲を巻き込む力が社会課題の解決に大きく役立つことを、巻さんは証明した。

さらに今年7月に発生した熊本南部豪雨災害でも、巻さんは復興支援に尽力している。
特に、全国から支援を募るために立ち上げたクラウドファンディングは、当初の目標金額を大幅に上回る1500万円の支援を集めるなど、
その活動はいまもなお多くの人の共感を呼んでいる。

アスリートが社会のためにできること

浦和レッズ・長澤和輝選手

次のセッションではアスリートが社会貢献活動を行う上での課題や、
このコロナ禍で浦和レッズの選手たちが自主的に実施した活動について、長澤選手が説明を行った。
長澤選手は、「社会貢献活動をしたいという想いがあっても、一緒に行動を起こしてくれる人がいないなど、
一人でアクションを起こすための壁に直面している」と多くのアスリートたちが抱える問題を代弁する。
そんな中でも浦和の選手たちは、新型コロナウィルスの流行がきっかけで、目的意識や問題意識が変わったと口にする。

新型コロナウィルスの影響により、実に4ヶ月の中断に追い込まれたJリーグ。
その間、活動自粛を余儀なくされた時期もあったが、選手たちはピッチの外でもできることを探すべく、
オンラインミーティングを自主的に実施。そこから生まれた企画が、
医療従事者への感謝のメッセージをSNS上にアップする企画だった。
競技の垣根を超えて多くのアスリートたちが参加した取り組みに、医療従事者らは勇気付けられ、各方面から賛同の声が届いた。
この活動を、長澤選手は「アスリートとしての価値を改めて感じられた」と振り返る。
また、「55あるJクラブが地域に向けた活動をそれぞれやっていくのは当たり前だが、
今後はアジアに向けてJクラブは何が出来るのかということが重要なファクターになってくると思う」と
アジアへの展開を目指すJリーグに対する展望も口にした。

さらにドイツ・ブンデスリーガでプレーをした経験を持つ長澤選手は、
ドイツにおける社会貢献活動や、選手たちが社会に与える影響の違いについても言及。
サッカーが国技であり、週末は誰もがサッカーを観戦する文化が根付いているドイツでは、
地域社会の一員として振る舞う機会が多かったという。地域の病院に入院する子どもたちにプレゼントを配る活動や、
地域の子どもたちに選手たちが自主的にサッカーを教えに行くなどの活動から、
ドイツではサッカーが本当の意味で地域社会に根付いていることを実感したという。
「(ドイツにおいては)サポーターの熱や地域の密着度、そして歴史が選手たちをスターへとのし上げてくれ、
(チームが)地域の中で大切なものになっている」と話す長澤選手は、
「Jリーグも地域に密着しながら規模を大きくしていき歴史を作っていくことが重要」とJリーグへの期待を口にした。

この話に対しHEROsプロジェクトコーディネーターの植木は、
海外ではアスリートが社会貢献活動を実施することが文化として当たり前であることを説明し、
その一例としてNBAで活躍する八村塁選手について紹介した。
NBAではスター選手が先頭に立って社会貢献活動を行う「NBA Cares」を実施しており、
その活動に八村選手はドラフト会議前日に参加していたという。
また植木は、海外ではチームとの契約条件の中に社会貢献活動を実施することが項目に入っているなど、
社会貢献活動・地域貢献が当たり前になっている事例も紹介。こうした環境が日本に根付くことを期待した。

スポーツの持つ力を使って社会を良くするのが「HEROs」

HEROsプロジェクトコーディネーターを務める植木美保子

続いてのトークテーマは「スポーツの持つ力」。
ここで植木からHEROsプロジェクトが定義した「スポーツの力」を紹介。
プロジェクトメンバーで分析したところ、スポーツの持つ力は共生・共感・教育・活力と4つに分類することができたという。
この結果を踏まえて「言葉の違いや育ってきた環境や性別など様々な壁を超えることが出来るのがスポーツの力だ」と植木は話した。
また、先述の巻誠一郎さんの例を挙げ、
今後、トップアスリートが「周りを巻き込む力」が社会に活かせるのではないかと今後に期待を寄せた。

また瀬川は「スポーツというコミュニティの力と発信者であるアスリートの価値をしっかりと結び付ければ、
一見するとスポーツと関わりがないように見える社会問題にも取り組むことが出来る」と説き、
北海道コンサドーレ札幌の荒野拓馬選手が立ち上げ全国展開されたフードロス解消活動「Rescue Hero」の事例を紹介した。 

最後に「何故アスリートは社会的活動が受け入れられやすいのか」というテーマに3名が答える。
「アスリートは子どもたちの夢になる部分もあるため、目指しやすい夢や憧れという部分で価値があると思う(長澤)」
「力強さや美しさ、目標に向かう力に対して大きな共感を得られるため(瀬川)」
「目標を成し遂げるために大きなPDCAを回してきた経験を持つアスリートの言葉はすんなり聞き手や読み手に入ってくる(植木)」
と各々の意見を述べ、約90分にわたるトークイベントは終了した。

スポーツ界が社会課題を解決するための取り組みは、まだ始まったばかりだ。
この先も、HEROsプロジェクトは、アスリートが先頭に立って社会問題に取り組む活動を推進していく。
HEROsの取り組みに関心があるアスリートは以下より問い合わせていただきたい。 

https://sportsmanship-heros.jp/consultation.html