著者:瀬川泰祐

今年で4回目を迎えるHEROs AWARD 2020の授賞式が、12月21日に東京・港区の日本財団ビルにて開催された。

スポーツやアスリートの力が社会課題の解決を加速させることを社会に可視化し、
アスリートの活躍の場を広げていくことを目的としているこのHEROs AWARD。
これまで競技の垣根を越え、多くのトップアスリートたちが参加する盛大な授賞式を開催してきた。
しかし今年は、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、
受賞者、HEROsの審査員、最小限の関係スタッフ、報道関係者のみの小さな式典となった。

式の冒頭、笹川陽平・日本財団会長より
「アスリートが率先して社会貢献活動を行うことで、
政治や行政だけでは行き届かない困難を抱えた人たちを直接助けると同時に、精神力も強くなっていく。
そんな人々の憧れである彼らの活動を通して、相互扶助の社会を目指していきたいということが日本財団の考えだ」という挨拶からイベントがスタート。
多くの報道陣が訪れる中、いよいよ気になる受賞者の発表へとうつった。

審査委員会の全会一致で決まった受賞4部門

まず、一般社団法人センターポールがNPO部門を受賞。
彼らは、パラアスリートによる学校・企業向けの講習とパラアスリートの競技支援を通して、
障がい者がチャレンジする機会や、健常者が障がい者を理解して受け入れる環境の促進を目指し活動を続けている。
審査員の中江有里さん(女優・作家)は
「活動を通して、障がいの有無に関わらないスポーツ体験や、
年齢や性別を超えてスポーツを楽しみながら障がい者との関わり方が広がっていく可能性を示した」と評価した。

中江さんよりトロフィーを授与されたセンターポール代表理事の田中時宗(ときのり)さんは、
「共に活動する15人の選手たちが評価いただいたと思うと本当に嬉しい」という喜びの声とともに、
「全国各地にも同じような活動をしている団体がたくさんあるので、これをきっかけに一緒に活動を広げていきたい」と今後の抱負を語った。

次に名前が読み上げられたのは、日本プロ野球選手会だ。
昨年より行ってきた全国の難病に苦しむ子どもたちとその家族の支援に加え、
新型コロナウイルスの収束と感染防止対策に向けて741名の選手が一体となり、5億円を超える寄付を集めた彼らに、
チーム・リーグ部門が授与された。
選手会を代表し授賞式に出席した会長の炭谷銀仁朗選手(読売ジャイアンツ所属)は、
「みんなで行ってきたことをこうして評価していただき大変光栄に思う」と感謝の気持ちを口にした。

今回の受賞のポイントについて松田裕雄さん(筑波大学准教授、株式会社Waisportsジャパン代表取締役)は、
「危機的状況の中でスピード感を持って活動したことが挙げられる。
さらにこの活動を選手たちの新しい生き方に繋げ、最終的に競技力の成長に繋がる意義のある活動ということが大きい」と説明した。

続いては、「アスリートは夢・希望を叶える職業」という信念の下、
被災地支援や子どもたちの夢の実現を手助けするプロジェクト「智恵サンタ」を
継続的に実施している女子プロゴルファー・有村智恵選手に女性部門が贈られた。
プレゼンターを務めた笹川順平・日本財団常務理事は、
「有村選手は、アスリートの持つ知名度や発信力を生かして、支援の輪を広げるリーダー役を担ってきた。
また個人の集まりでまとまった活動が難しい女子プロゴルフ界の中でも、多くの女子ゴルファーやファンを巻き込み、
社会貢献の輪を広げてきたスポーツマンシップを高く評価した」と話す。
また受賞に際して有村選手は、
「これまで自分がお世話になってきたからこそ子どもたちに何か恩返しをしたいという気持ちでやってきたので、
こうやって表彰していただき大変恐縮している」と語った。

そしていよいよ式典は、「HEROs Of The Year」の表彰にうつる。
今年度は、「AFRICA DREAM SOCCER TOUR supported by SHOWA GLOVE」に取り組む、
本田圭佑選手(ボダフォゴFR所属)にその栄誉が与えられることとなった。
このプロジェクトは、スラム街に住む子どもや元ストリートチルドレン、HIVなどで親を亡くした子どもなど、
機会の不平等に直面するアフリカの子どもたちの自立に向け、

 1.無償でのサッカー指導の”機会”

 2.サッカーアカデミー入団の”機会”

 3.サッカー以外の才能育成の”機会”

という3つの機会を提供するものだ。

これについて宇賀康之さん(Sports Graphic Number編集長)は
「過酷な環境で暮らす子どもたちの今を助けるだけではなく、
彼らの未来を照らすような可能性が大きい、まさに夢のあるプロジェクト」と評価。
さらに「現役を続けながらこうした活動に邁進される本田選手に大きな敬意を表して、
HEROs Of The Yearを贈呈する」と付け加えた。

シーズン中のため授賞式への参加が叶わなかった本田選手だが、ビデオメッセージにて
「コロナの影響でスポーツ界が大打撃を受けた1年の中で、自分でできることに挑戦はしたが、
まだまだできることがあったのではないかと反省している。来年に向け選手として少しでも成長できるように
頑張っていきたいと思うし、それ以外の活動でも皆さんに喜んでもらえるような活動を増やしていきたいと思う」
と振り返りながら、来年に向けた思いも語った。

本田選手の代理として授賞式に出席した二村元基さんは、
「本田は本当に好奇心が旺盛なので、どんどん突っ走っているため現場の我々は四苦八苦している。
でも彼のピュアな思いがこのプロジェクトのスタート地点なので、
我々も彼の情熱に背中を押されて活動をさせてもらっていると思う」と活動の裏話について口にした。

スポーツ界から始まった社会貢献の新たな潮流

新型コロナウイルスの影響により様々なチーム・組織が活動を休止し、大会が軒並み中止に追い込まれたスポーツ界。
そのような状況下でも、多くのアスリートたちは社会貢献活動を通して、自らの価値を発揮し続けた。 

これらの活動は、これまで日本に根強くあった、
「社会貢献は人に知らせずに密かに行うもの」という“隠匿の文化”に大きな変化をもたらしたと言えるのではないだろうか。
このスポーツ界から始まったムーブメントが、「寄付文化がない」と言われる日本に、いま変化をもたらしつつある。
今後アスリートの社会貢献活動は新たなフェーズに突入していくだろう。
審査委員長の間野義之さん(早稲田大学スポーツ科学学術院教授博士(スポーツ科学))が「人生になければならないものだと思っていたスポーツがコロナ禍で不要不急のものとされ、あっという間に止められてしまうものだと痛感した。
しかし時間が経つにつれて、やはりスポーツは必要だと日本だけでなく世界の人々が実感している」
と総括したように、スポーツは社会情勢の変化により、都度取り巻く環境に変化が生じてしまうものだ。

そのような状況下で見せたアスリートたちの社会貢献活動は、
2020年のスポーツ界を象徴する出来事であり、社会貢献の新しいカタチを示したように思う。

彼らのようにHEROsも社会の変化を受け入れながら、アスリートが社会課題の解決の先頭に立つ機会を増やし、豊かな社会を作っていくことを目指していく。