2023年3月28日、認定NPO法人 Being ALIVE Japan(以下、Being ALIVE Japan)が企画・運営するスポーツイベント『TEAMMATES スポーツ祭 2023』が、日本財団パラアリーナで開催されました。

Being ALIVE Japanは、⻑期治療中のこどもたちやその家族をスポーツを通じて支援する団体です。

病院や特別支援学校のこどもたちに向けたスポーツイベントを開催するなど、入院中から退院後まで幅広いプログラムを展開し、2018年のHEROs AWARDでは最優秀賞を獲得しました。

長期療養を必要とする子どもたちは、退院後も運動の制限があるケースも少なくありません。このスポーツ祭は、さまざまな病気で長期療養中のこどもたちの身体条件に合わせて「チーム体験」を提供することが目的です。

2019年8月に第一回が開催されましたが、その後に迎えたコロナ禍での実施は難しく…徐々に情勢も落ち着いてきたこのタイミングで、徹底した感染症対策のもと3年ぶりの開催が決まりました。

今回は、小学校高学年を中心に総勢25名のこどもたちが参加したほか、多種多様な競技に取り組むアスリートも多く参加しました。

参画したチーム、アスリートは以下の通りです。

【参画チーム】

浦安 D-Rocks(ラグビー)

横浜ビー・コルセアーズ チアリーダーズ「B-ROSE」(チアリーディング)

慶應義塾体育会野球部(野球)

【参画アスリート】※五十音順

浅野 祥代(ホッケー)

岩渕 幸洋(パラ卓球)

梅原寛樹(ラクロス)

岡田 麻央(バスケットボール)

小原 翼(バスケットボール)

笹原 龍(テニス)

菅谷美玖(ラクロス)

瀬川 真帆(ホッケー)

泊 志穂(サッカー)

長谷川 翔(バレーボール) 藤尾 香織(ホッケー)

当日はこどもたち全員が楽しめるように、上記のアスリートたちが工夫を凝らしたコンテンツが展開されました。3年ぶりにやってきた待望の時間に、参加者はどのような思いを抱いていたのでしょうか。アスリートや子どもたちの声とともにイベントの様子をお届けします。

テーマは「全員がチームになって全力で楽しむ」こと

続々と会場に入ってくるこどもたち。しかし、その顔はどこか緊張気味です。開会の前にアイスブレイクとして、まずは横浜ビー・コルセアーズ チアリーダーズ「B-ROSE」のKyokaさん、Nanaさん、Nicoさんと一緒に応援練習をして、緊張をほぐしていきます。

「こどもたちに笑顔で楽しんでもらえるように、声を明るくしたり、私たち自身も楽しみながらレクチャーすることを意識しました」とNanaさん。少しずつこどもたちの表情が明るくなっていきました。

笑顔でレクチャーするNanaさん
みんなで円陣を組んでスポーツ祭に臨みます!

開会式であいさつをしたBeing ALIVE Japan代表の北野華子さんは、「全員がチームになって全力で楽しむ」ことをテーマに掲げました。いよいよ、イベントが始まります。

自分とこどもたちの姿を重ね、寄り添うアスリート

本イベントでは、アスリートが3か所のブースに分かれ、それぞれ約20分のプログラムを実施。こどもたちは自由に、自分の好きなスポーツに取り組みました。

まずはじめに子どもたちが体験したのは、卓球、チアリーディング、サッカーのプログラム。それぞれが体験したい競技のアスリートのもとへ、元気よく走り出していきました。 なかでも多くのこどもたちが参加したのが卓球のプログラム。担当するのは東京パラリンピックにも出場した岩渕さんです。障害のある自分自身の境遇をこどもたちと重ね「自分も障がいがあるなかでスポーツを続けてきましたし、なにかできることがあれば嬉しいなと思い、イベントへの参加を決めました。すごく楽しそうに体を動かしてくれましたし、こどもたち同士で応援している姿もあって、すごく良かったなと思います。今後もできることがあれば、積極的に参加したいです」と語りました。

ピンポン玉を使った的あてゲームなど、こどもたち全員が楽しめる企画を展開した。

こどもたちと接し、アスリートが得た学び

また、今回のイベントにはプロだけでなく大学生アスリートも参加しました。Being ALIVE Japanの入団プログラム「TEAMMATES(チームメイツ)」で、こどもの受け入れをしている慶應義塾体育会野球部の門倉基勝さんと一尾颯士さんです。

2人が担当した野球のプログラムではストラックアウトとティーバッティングが用意され、子どもたちに寄り添いながらコツを伝授していました。投げたボールが的にあたったり、打ったボールが大きく飛んでいったりすると周囲から拍手が起きるなど、温かい空間が広がっています。 「こういったイベントに参加するのは初めてだった」という門倉さんですが、イベント中は自ら積極的にこどもたちへ歩み寄り、言葉をかけている様子が印象的でした。

こどもたちやアスリートと記念写真を撮る門倉さん(中央)
こどもたちにボールの投げ方を教える一尾さん

「こどもたちと目線を合わせて、フレンドリーに接することを意識しました。エネルギーをもらいましたし、一人のアスリートとして頑張ろうと思いました」と一尾さん。こどもたちとの触れ合いのなかで、大きなエネルギーを受け取ったようです。今後のスポーツ界を担っていく学生アスリートが、このようなイベントに参加することには大きな意義があると痛感させられる光景でした。

その後もゴルフやテニス、ラグビーなどのプログラムが続きます。ラグビーのプログラムでは、プロ選手たちがエキシビションとしてラインアウトやパスなどを披露。迫力のあるプレーに、こどもたちからは歓声があがりました。

こどもたちもラインアウトを体験しました!

次々にはじまる楽しいコンテンツですが、こどもたちは途中にしっかりと休憩も取っています。休憩スペースのこどもたちを見ると、スタッフからシールを受け取る姿が。

実は、イベント中に決められたアクションを起こすとシールをもらえ、全てクリアするとHEROs缶バッチがプレゼントされるのです。イベント中すべての時間をこどもたちに楽しんでもらいたい、という思いを感じることができました。

「可能性は無限大。限界をつくらず、夢中になってほしい」

楽しい時間はあっという間に過ぎ、最後のプログラムを迎えます。終了間際まで盛り上がりを見せていたのは、バスケットボールのプログラム。3×3 プロバスケットボール選手の岡田さんが、パスやドリブル、シュートなどバスケの基本的な動作をレクチャーしました。

こどもたちは自分の身長よりもはるかに高いゴールをめがけて、一生懸命シュートを放ちます。岡田さんはシュートが決まると「すごい!すごい!」と声をかけ、褒められたこどもたちは自慢げに笑顔を浮かべました。 「こどもたちが想像以上に楽しんでくれて、むしろ私のほうが楽しんでしまったなという印象です(笑)。お互い敬語も使わずに、友だちのように接することができて、すごく素敵な機会だったなと思います。こどもたちの可能性は無限大です。自分に限界をつくらず、楽しいと思ったことは夢中になって続けてほしいです」と、こどもたちの未来に思いを馳せました。

プログラムが終わっても、まだまだ動き足りない様子で元気にアリーナを走り回るこどもたち。充実した表情で感想を話してくれました。

「僕は骨が弱く、できないスポーツも多いんですけど、今日はいろいろな体験ができて楽しかったです。みんなと仲良くしたり、仲間と協力してやるのが楽しいです。アスリートさんは、みんな上手でした。バレーボールをやったときには、腕を伸ばすと真っ直ぐ飛ぶよ、と教えてもらいました。これからもこういう体験があれば、参加したいと思います」

「みんなとたくさんスポーツができて楽しかったです。サッカーとゴルフと、バスケをやりました。自分はバスケをやっているので、いちばん楽しかったです。みんな上手いし、もっと頑張ろうと思いました。こういうイベントをきっかけに、新しいスポーツにも挑戦していきたいと思います」

コロナ禍を乗り越え3年ぶりの開催、Being ALIVE Japan代表の思い

滞りなくイベントは終了。コロナ禍で3年ぶりの開催へ向け、準備を進めてきたBeing ALIVE Japan代表の北野さんは、安堵の表情を浮かべました。

「まずは、イベントを無事に開催することができてホッとしています。コロナ禍で外に出ることを心配するご家庭も増えたなかで、安心して参加してもらえるように、できる限りの対策をとりました。

長期療養を必要とするこどもたちは、退院しても制限があったり、体力の差から兄弟姉妹と一緒に参加できる活動も多くはありません。そういったこどもたちに体を動かす場所をつくってあげたい、社会性を育み、自立をサポートしたいという声を聞いたことが開催のきっかけです。

まだまだこういった機会は少ないので、こどもたちが通う学校の長期休みに合わせて継続的に開催していきたいです。あとは関東だけではなく、全国に広げていきたいですね。そのためには、ボランティアの方や企業の支援、アスリートの方の協力が必要なので、これからはさらにネットワークを広げていきたいと思っています」

コロナ禍を乗り越え3年ぶりに実現した『TEAMMATES スポーツ祭』。イベントの名前にある通り、こどもたちとアスリートが「チームメイト」となり、かけがえのない時間を過ごしました。スポーツによって結ばれた繋がりによって、さらに広がるこどもたちの未来が楽しみです。

【参加アスリートコメント】

過去のHEROsイベントにも積極的に参加しているプロテニスプレーヤーの笹原さんは、東日本大震災のときに自身が『スポーツの力』によって救われた経験を、こどもたちに伝えたいと話します。

僕は宮城県仙台市出身で、東日本大震災を経験しています。当時もスポーツに救われましたし、自分が続けてきたテニスで恩返しをしたいと思い、競技以外の活動にも積極的に参加しています。意識したのは、とにかく僕自身が一緒に楽しむこと。楽しむ気持ちがあれば、どんなことも乗り越えられると思っています。イベントを通じて、こどもたちの溢れんばかりの笑顔にすごくエネルギーを感じました。楽しい気持ちでいっぱいです」

参加した中には、過去にBeing ALIVE Japanに職員として所属していたアスリートも。元プロビーチバレー選手の長谷川さんです。3年ぶりにイベントが開催されたことを、感慨深く感じているとのことでした。

「前回のスポーツ祭には、Being ALIVE Japanの職員として参加していました。コロナ禍を経て、3年ぶりに開催できて良かったと思います。僕は現役時代から社会貢献に興味がありました。活動を通じてこどもたちに喜んでもらえますし、交流したこどもたちが会場に足を運んでくれて応援してくれたこともありました。こういった活動に参加することで、競技生活も充実させることができると思うので、他のアスリートの方にも積極的に取り組んでもらいたいですね」