自治体・NPO法人・企業と連携した社会貢献活動を行なうBリーグ 千葉ジェッツ。地域を支えていく存在となることを目指し、経済的困難な家庭への支援やフードロス改善、気候変動へのアクション等幅広く活動しています。この功績が讃えられ、2021年のHEROs AWARDではチーム・リーグ部門にて表彰されました。

チームでの活動に加えて、自ら活動している選手の一人が佐藤卓磨(さとう・たくま)選手です。「自分の好きな絵本を通じて、子どもたちに勇気を届けたい」。その一心で絵本制作に取り組んでいます。

https://note.sportsmanship-heros.jp/n/n71066cf9b998

同じく子どもたちの可能性を広げたいと活動しているのが、お笑い芸人の麒麟・田村裕(たむら・ひろし)さん。地元・大阪の児童養護施設などへ、本やおもちゃの寄贈をしています。学生時代はバスケ部に所属し、今でも大のバスケ好きとして積極的に発信しています。

インタビューを通じて二人が口にした、「恩返し」という言葉。バスケから多くを得た二人が共通して抱く、子どもたちへの熱い思いとはーーー。

子どもたちに、チャンスを与えたい

ーはじめに、お二人の活動内容について教えてください。

佐藤:僕は、船橋市をはじめとする地域の子どもたちへ『ぼくはキリン』という絵本を届ける活動をしています。ストーリーは僕が考えて、絵本作家のカワダクニコさんに描いていただきました。

2021年10月ごろから企画し始めて、2022年の3月ごろから各所へ寄贈させていただいています。コロナ禍で子どもたちと直接会えない中、伝える手段として浮かんだものが本でした。母親によく読んでもらっていたので、幼い頃の思い出といえば絵本だったんです。

自分に自信のなかった主人公のキリンが、バスケットボールを通じて仲間とともに成長していく物語です。キリンは首が長くて馬鹿にされがちなイメージもありますが、あの首こそが強みでもあるので、誰もが強みを持っていることを、子どもたちに伝えたいなと。

佐藤選手と、『ぼくはキリン』

田村:そこまで設定もしっかり考えられていたんですね。ちなみに作成時、麒麟・川島と田村の顔は浮かびましたか?(笑)。

佐藤:おお、確かに……!すごい偶然ですね。次はぜひ一緒にコラボさせてください(笑)。

田村:おもしろいね。パロディーで、僕と川島が出演しているのを一冊だけ作って欲しいです(笑)。

佐藤さんみたいに絵本を創作するなんて凄いことはできていないんですけど、僕は、著書『ホームレス中学生』の印税を活用して、生まれ育った吹田市の児童養護施設4カ所へおもちゃを届ける活動をしています。あと、地元の小学校へ本の寄贈もしています。

ーそれぞれ活動に至ったきっかけや思いをお伺いしたいです。

佐藤:もともと「子どもたちのために何かがしたい」という想いがあったんです。僕自身、バスケからたくさんの経験や学びを得てきました。バスケがなければ今の自分はいません。だから、恩返ししたいなと。

子どもたちにチャンスを作ってあげるのが、僕ができる恩返しだと考えています。自分には価値がある、可能性があると気づくことができれば、広がる未来はきっとあります。

僕自身、小学生の頃に野口大介選手(現・長崎ヴェルカ)からの一言をきっかけにプロ選手になれました。バスケクリニックで、「君、バスケ選手になれるよ」と。そこからどんどんのめり込んでいって、今があります。

田村:家庭環境が複雑な中、バスケを通じて家にはない安心感を得ていました。佐藤選手と同じく、バスケに恩返しをしたいと思っています。

不公平なことですが、子どもたち一人ひとりに与えられる環境が均一になることはありません。与えられた環境の中で、どう未来を切り開いていくかが全てです。

僕がバスケに関わったり発信したりすることで、「こういった生き方もあるんだ」と伝わればなと。少しでも子どもたちにとっての底力であれたら嬉しいと思っています。

バスケを通じて、子どもたちと交流する田村さん<写真:本人提供>

佐藤:いろんな選手が社会貢献に関わって、バスケ界が大きくなっていけば嬉しいです。長期的に取り組むことが重要だと思っています。僕自身、持っているもの全てを与えることで、さまざまなご縁として返ってきているなと。これが広がっていけば、バスケ界は強くなっていくと確信しています。

「受けた恩は、石に刻む」

ーお二人とも、「恩返し」がキーワードですね。

佐藤:今のバスケのキャリアを歩めていることに、本当に感謝しています。ここまで僕を育ててくれたからこそ、次は子どもたちにとってより良い世界であってほしいんです。

田村:どうしてそこまで、恩を大事にできているんですか?

佐藤:父親から「刻石流水(こくせきりゅうすい)」という言葉を大事にしなさいと言われてきました。自分が受けた恩は石に刻んで、自分が誰かにしたことは水に流せ、と。


田村:子どもたちの可能性を広げるためには、自己肯定感を高めてあげることも大切だと感じています。佐藤選手は当初ディフェンスが強くて、あまりシュートを打っていなかったですよね。でも最近は自信を持って打っているし、得点を決めている印象があります。どのように幅を広げられたのですか?


佐藤:去年まで千葉ジェッツでヘッドコーチをされていた、大野篤史さんの影響を大きく受けています。ディフェンスにしか注力していなかった頃、「卓磨は自分の可能性を決めつけている」と言われたんです。それでもずっと「絶対にシュートが入るようになるから、打ち続けてほしい」と声をかけてくださいました。その言葉を信じて練習していると、入るようになったんです。

僕は25、26歳でも変わることができました。だから自分の可能性に気づきさえすれば、誰もが成長できると思っています。

田村:日本代表まで登り詰めている選手が自ら、子どもたちに伝えていくのは素晴らしいことですね。大野さんから佐藤選手に受け継がれて、また未来に受け継がれていくはずです。

佐藤:次は僕の番だ、と思っています。

田村:失敗を恐れる気持ちはなかったのでしょうか?

佐藤:もうありません。もともとビビリですし、プロになってからは失敗の方が多かったです。でも実際に自分の成長を感じられてからは、むしろ「失敗待ち」なくらいで。

田村:たくましいですね。「卓磨」の「タクマ」は、ここから来ているのかもしれないと思いました(笑)。

佐藤:キャプテンの(富樫)勇樹さんも、失敗を恐れずにどんな状況でもシュートを打っていくので、普段から勇気をもらっています。近くにそういったロールモデルがいるのもありがたいですね。チームスタッフやチームメイトには、感謝してもしきれません。

田村さんこそ、いろいろな状況を打破してこられたのではないですか?


田村:幸い僕の場合は、家庭環境が良くなくても落ち込まなかったんです。「こういうこともあるか」と思って、今いる環境でできることを探しながら進んできました。

ある出来事まで、自分が一番不幸だと思って生きていたんです。たまたま一緒に帰った高校の同級生の家が、ものすごく大きな建物で、庭に遊具もあるんですよ。「何なんこれ、めちゃくちゃ金持ちやん!」と言うと、両親が居なくて児童養護施設で暮らしていることを教えてくれたんです。僕は中学生のときに親がいなくなりましたが、生まれつき親と過ごせない人もいるんだと初めて知りました。この経験がずっと忘れられなくて、「いつか自分より厳しい環境にいる子どもたちに対して何かしたい」と思っていたんです。佐藤さんは、「活動しよう」と思った原体験はあるのですか?

佐藤:滋賀レイクス(当時・滋賀レイクスターズ)に所属していた頃、バスケができない時期がありました。

そのときに、スタッフ側の業務をお手伝いさせていただいていました。オフィスで運営の裏側を見て、改めて「サポートがあるから選手として活動できている」「感謝しなければ」と気づいたんです。これを若い世代にも伝えていきたいと思ったことが、行動しようと思った原点ですね。

田村:あの出来事から、本当にピンチをものにしたんですね。ポジティブな力に置き換えていくというか。素晴らしいと思います。

佐藤:今こうして田村さんとお話しできているのも、信じられないです(笑)。

社会貢献活動は「もっと発信していい」

ー佐藤選手は、実際に絵本の読み聞かせもされていますよね。子どもたちの反応はいかがでしたか?

佐藤:想像以上に食いついてくれました。「動物が出てくる絵本」くらいの印象かもしれませんが、絵本の内容やバスケットボールについてどこかで思い出してくれると嬉しいですね。

佐藤選手自ら、絵本を読み聞かせ

絵本を出した時のサイン会も印象に残っています。参加した児童養護施設出身の女性の方が、「プロ選手が子どもたちのための活動をしてくださっているのは本当に嬉しい」と声をかけてくださいました。

サイン会にて

田村:0から自分で作って、届けにいく。接点を持って終わりではなく、ここまでできているのは素晴らしいと思います。


ー選手が社会貢献活動に取り組むことに対して、どのように感じられていますか?

田村:選手が競技外で活動するのは、とても良いことだと思います。発信力も上がっていて、バスケ界は徐々に変わってきました。選手の方々には、コート内で活躍するだけでなく、社会とさまざまな接点を持ってほしいです。バスケを通じて、みんなの人生が豊かになれば最高だと感じています。

NBAもよく見ますが、海外では社会貢献に関わる選手が多くいます。ようやく日本でも意識が高まりつつありますね。

佐藤さんは、同じアスリートの活動で素晴らしいと思うものはありますか?


佐藤:同じ東海大出身の寺嶋良選手(広島ドラゴンフライズ)は、「テラシーの本棚」というInstagramのアカウントをやっています。自分が読んだ本について、紹介しているんです。本を読むための一歩を踏み出しやすくしていて、とても良いなと思っています。実は自分で本を書いてみたかったらしく、今回僕に先越されて悔しがっていましたね(笑)。

ー社会貢献活動については、「一歩踏み出すのが難しい」と感じるアスリートも多いと思います。

佐藤:試行回数は大事だと思います。僕は昔から何でもすぐに手を出すタイプでした。だからこそ失敗も多かったですし、「もう少し先のことを考えた方がいい」と言われることもありました。

「失敗したらどうしよう」「行動してみて反応がなかったらどうしよう」と思う方もいるかもしれません。でもまずは誰かに話してみたり、動いてみることが重要だと考えています。

ー「自分からアピールしたくない」と思ってしまうのかもしれません。

田村:僕も恩着せがましいかなと思い、児童養護施設へは公表せずに寄贈しました。でも今となっては「麒麟田村が届けた」としっかり伝えるべきだったと後悔しています。もしかすると僕の活動を見て、「私もやってみよう」と思う方がいたかもしれません。社会貢献やボランティアに関わることは、恥ずかしいことではありません。

佐藤:むしろ一人ひとりの強みを活かせる場でもあるので、もっと発信していっていいとアスリートには伝えたいです。

僕も周りの目を意識してしまっていましたが、チームメイトもすんなりと応援してくれました。丁寧に自分の想いを届けていければ予想以上にハードルは低いんだ、と思いました。

ー「HEROs AWARD」のような活動があることに対しては、どのように感じられますか?

田村:こういった活動があった方が、楽しいと思うんですよね。明日死ぬかもしれないし、今日は楽しい方がいいじゃないですか。社会貢献活動に楽しい要素を含めることはとても大切だと思います。スポーツとお笑いを一緒にしたAWARDみたいなものを作るのも、おもしろそうじゃないですか?。

もちろん表彰される選手は嬉しいし、応援しているファンの方々も嬉しいはず。そうして活動が広がっていくのが理想ですよね。

ーお二人から伝えたいことと、これからの活動への展望をお聞かせください。

佐藤:子どもたちには、自分の強みを見つけて、夢や希望を持って生きていってほしいです。引き続きBリーグを盛り上げられるように、どんどん活動していきたいと思っています。

田村:人生において、自己肯定感は重要な要素。幸福度が一気に変わります。子どもが幸せだと親も幸せだと子育てをしていて感じます。子どもたちがポジティブに過ごすことで、周囲の大人も明るくなっていけばいいですよね。そんな未来になってほしいと思っています。

田村さんと千葉ジェッツの選手たち<写真:本人提供>

千葉ジェッツも受賞したHEROs AWARDが今年も開催!
HEROs AWARDが12月20日(火)に開催予定です。
AWARDについてはこちらを御覧ください。

https://sportsmanship-heros.jp/award/

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