『Being ALIVE Japan』は、スポーツを通じて、長期治療が必要な病気のある子どもたちを支援している団体です。

スポーツチームに入団し、選手と共に活動する「入団プログラム」をはじめ、病院や地域で病気の子ども向けのスポーツイベントを開催するなど、入院中から退院後まで、幅広いプログラムを展開。それらの活動が認められ、2018年のHEROs AWARDでは最優秀賞を獲得しました。

https://www.beingalivejapan.org/index.html

『Being ALIVE Japan』の活動の背景にあるのは、代表を務める北野華子(きたの・はなこ)さんの思いです。幼少期に長期治療を経験した経験から、同じ境遇の子どもたちに「青春」を届けるべく活動を続ける北野さんに、スポーツが子どもたちに与える力について伺いました。

本取材は、ステークホルダーとHEROsのかかわりを紹介するために実施されました。
HEROsプロジェクトに関してはこちらのデジタルパンフレットをご確認ください。

叶えたい“青春”を実現できる社会に

―まずは『Being ALIVE Japan』を立ち上げたきっかけを教えていただけますか?

幼少期に、長期治療を経験したことがきっかけです。当時、治療と前向きに向き合う理由になったのは、「運動会や文化祭など、学校行事に参加したい」という叶えたい青春があったからです。

 病気で諦めなければいけないこともたくさんありました。ただ、私には叶えたい“青春”があったんです。今、長期治療を必要とする子どもたちが、可能な限り最高のこども時代“青春”を実現できる社会をつくりたいと思い、活動を始めました。

―その夢を実現するために、どのような進路を歩んでこられたのですか?

はじめは大学で、ヘルスコミュニケーション分野を学びました。具体的には、子どもたちが前向きに病気と向き合えるようなコミュニケーション方法です。その後、進学した大学院では、患者さんだけでなく、広く公衆に向けて健康や医療のメッセージを伝える公衆衛生分野を専攻しました。

大学時代に、アメリカには病気のある子どもを心理社会的支援する資格があると知り、ずっと取得したいなと思っていたんです。大学院時代は、研究所で公衆衛生の仕事をしながら留学の準備を進めました。

―渡米はいつ頃だったのでしょうか?

 2013年です。ちょうど2020東京オリンピック・パラリンピックの招致が決まった年でした。

進学したSpingfield College大学院はスポーツ分野の人材育成に力を入れている大学だったので、先生と入学時の面談時にオリンピック・パラリンピックの話題になりました。話の中で、「障がい者や病気のある人に、スポーツで支援する資格する資格もある」と教えてもらいました。病気のある人がスポーツをするイメージが無かったので驚きました。 

“パラリンピック”という言葉は知っていましたが、詳細は分からないことだらけ。「せっかくスポーツ分野の人材育成に力を入れている大学院に留学したんだから、勉強してみよう」と。授業を受けるうちに病院でのスポーツ活動の興味を持ち、インターン先として選んだのが、アトランタパラリンピックレガシー団体「BlazeSports America」でした。

―『BlazeSports America』とは、どのような団体なのでしょうか?

1996年のアトランタパラリンピックに合わせて設立されたスポーツを通じて病気や障がいのある人を支援する団体です。発足から20年が経っても、アトランタパラリンピックの開催を機に生まれたムーブメントを継承しながら社会に影響を与え続けているのは、すごいですよね。

活動に参加させていただくなかで、誰もが 楽しめるスタジアム設備、サービス提供の法律ができたり、雇用が拡大したりしたことを知りました。

病院でのスポーツ活動は、リハビリはもちろん、患者さんの生活の質をあげることが目的です。病気で諦めなければいけないことがあっても、スポーツを通して新しい楽しみ、コミュニティと出会うことができます。

スポーツは勝敗のある競技だと思っていましたが、それだけではなかった。社会を変える力、人に新しい選択肢や価値観を与える力があることを知り、感銘を受けました。

アスリートの力を借りて、輪を広げる

―アメリカでの経験を経て、『Being ALIVE Japan』を立ち上げたのですね。どのようにして、活動の規模を拡大してきたのでしょうか?

アスリートの方に参加してもらいながら、参画するアスリートとスポーツ体験を増やしてきました。幼馴染の元プロビーチバレー選手である長谷川翔(現『Being ALIVE Japan』プログラムマネージャー)に、「アメリカでスポーツを通じて病気のこどもを支援する活動をしてきて、日本でも始めたいんだよね」と相談したのが最初です。

長谷川は「手伝うよ」と、アスリート仲間に声をかけてくれました。私自身も、新聞記事で見かけた、事業に賛同していただけそうなアスリートの方に「協力していただけませんか?」と電話をかけたりしました。

日本でスポーツを通じて病気のこどもを支援する活動を始めるにあたって、ハードルは少なくありません。病院に活動に賛同していただける理由が必要ですし、抗体検査や予防接種などの準備をしなくてはいけません。

どれくらいの病院やアスリートの方が協力してくれるのか、不安はありました。しかし、直接お話をさせていただくと、皆さん快く引き受けてくださって、どんどん輪が広がっていきました。

―具体的に、どのような活動をしているのでしょうか?

大きく分けて、3つのプログラムがあります。長期療養中のお子さんがスポーツチームに入団し、練習や試合に参加する『入団プログラム(TEAMMATES活動)』、入院中のお子さんにスポーツをする機会をつくる『病院プログラム』、退院後にお子さんにスポーツをする機会を提供する『地域プログラム』です。また新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、オンラインプログラムも病院と活動企画を実施しています。

もともと病院内で活動をしていたのですが、そこで治療が完結するわけではありません。退院後も、長い治療生活が待っています。状況に合わせた場を用意する必要があると考え、複数のプログラムを用意しています。

―HEROsとの取り組みを始めた経緯は?

もともと日本財団さんには、2017年からご支援いただいていました。HEROsの立ち上げにも尽力された長谷川隆治さん(現日本財団 経営企画広報部部長 )に、入団プログラム立ち上げのときから協力していただいていたんです。

https://note.sportsmanship-heros.jp/n/nf317831439eb

主にプログラム発足時の資金提供や、アスリートやスポーツチームの紹介などです。そんな中、2018年に、私たちの活動をHEROs OF THE YEARに選出していただいたんです。

この受賞が大きな転機となり、さまざまな取り組みに繋がりました。

例えば、湘南ベルマーレでの入団プログラムは、日本財団さんが湘南ベルマーレフットサルクラブの久光重貴選手(2020年没)を紹介してくださったことがきっかけです。

https://www.beingalivejapan.org/team/bellmare2019.html

受賞後、HEROsとの取り組みが始まり、支援金を活用して、日本財団さんが運営する大型アリーナでの『スポーツ祭』も実施しました。過去にご協力いただいたアスリートの方をお呼びして、サッカーやバレー、テニスやゴルフなど、子どもたちが好きな競技を選んでプレーできるイベントです。https://www.beingalivejapan.org/info/report/community/20190814.html

―金銭面の支援だけではなく、共にスポーツをする機会を創出しているのは良い関係ですね。

支援金は単年度申請なので、継続して支援していただける保障はありません。最初に担当者の方と打ち合わせをしたときも、「3年を目安に、自走できる基盤をつくっていこう」と話しました。

とはいえ、新規事業の立ち上げは、一筋縄ではいきません。金銭的な支援はもちろん、日本財団さんが築いてこられたコネクションの提供に感謝しています。ここまで目まぐるしい日々を送ることができているのも、日本財団さんのおかげです。

プログラムに参加し、社会と繋がるきっかけをつかんでほしい

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―プログラムを体験した子どもたちに変化はありますか?

子どもたちからすると、長期治療が必要な自分がプロスポーツ選手になるイメージはしづらいのかもしれません。一方、大学生に対しては、「あの大学に行って、あの人みたいになりたい」と、可能性を感じられるのかもしれませんね。

―スポーツをポジティブなツールとして活用しているのですね。

スポーツは、自分の可能性を見出す機会をつくれます。病気と向き合っていると、どうしても「できないこと」が増え、子どもたち自身、また周囲がここまでと可能性に線引きしてしまうこともあります。

私たちの活動では、子どもたちができることや強みを活かせるスポーツ活動を企画しています。そして活動の中ではアスリートとともに、子どもたち自身ができることを見出す機会、また成功体験を増やす機会をつくることを大切にしています。

―最後に、今後取り組みたいことを教えてください。

「スポーツの力で、長期治療中子どもたちの可能性や価値観を変える、選択肢を増やす」という目的は、活動開始当初から変わっていません。一人でも多くの子どもたちに、プログラムへ参加してもらって、ロールモデルとなる人に出会ってほしいです。

病気の情報は検索して知ることができますが、長期治療中に何ができるのかの情報はあまり行き渡っていません。私たちの活動を、スポーツチームやアスリートの力を借りて広めていきたいです。

今後も、日本財団さんやアスリートの方と協力しながら新しいイベントを実施しようと計画しています。ぜひ、長期治療中子どもたちには、人や社会と繋がる大きなきっかけになりますので、ぜひつかみに来ていただきたいです。

HEROs AWARDは、スポーツやアスリートの力が社会課題解決の活性化に貢献していることを社会に周知することで、活動を応援、また共に活動してくれるファンを増やし、社会貢献活動をより多くの人々が取り組むようになることを目指し実施しております。

https://sportsmanship-heros.jp/award/

本取材は、ステークホルダーとHEROsのかかわりを紹介するために実施されました。
HEROsプロジェクトに関してはこちらのデジタルパンフレットをご確認ください。