2022年3月27日(日)、ホテル椿山荘東京(東京都文京区)にて、『HEROs DREAM』の第4弾「東京2020パラリンピック競泳金メダリストの木村敬一選手と将棋で交流!」(ゲスト:パラ競泳金メダリストの鈴木孝幸選手)が開催されました。

『HEROs DREAM』とは、アスリートがファンに対して「特別な体験」となるイベントを企画し、ファンは参加抽選券への申込を通じて寄付を行なう、アスリートとファンが連動して実現する社会貢献の企画です。寄付金は、アスリートによる社会貢献の取り組みや困難に直面する子どもの支援など、社会課題解決のために活用されます。

今回のイベントでは、6名の当選者が参加しました。将棋のレベルは初心者から段位を取得している方までさまざま。個人戦と、木村選手チームと鈴木選手チームに分かれて団体戦で対局が行なわれました。

東京パラリンピック選手村で同じ部屋同士で、試合や練習の合間に気分転換も兼ねて将棋を楽しんでいたというお二人。どのような対決が見られたのか、当日の様子をお伝えします。

将棋を通じて、アスリートの新たな一面を知っていく。木村選手・鈴木選手の直接対決も

当日は、参加者一人ひとりと木村選手、鈴木選手いずれかとの対局が行なわれたあと、木村チーム・鈴木チームに分かれて団体戦が行なわれるという流れでした。MCはフリーアナウンサーの中井美穂さんで、解説は女流棋士の中村桃子さん。ホワイトボードに貼られた大きな将棋盤を使い、初心者の方にもわかるように丁寧な解説をされていました。

今回は時間が限られているため、対局における一人あたりの持ち時間は15分というルールが適用。自分の番で使用できる時間が限られているため、いかに時間を残しながら上手く進めていくかが鍵になっていました。

最初に木村選手と対戦したのは、「東京パラリンピックで木村選手を見てファンになった」と話す女性。憧れの人を前に緊張する様子を見せながら、対局が始まりました。時折木村選手がアドバイスをしながら、和やかな雰囲気で会話を楽しんでいる様子が印象的でした。

同時に鈴木選手と対戦していたのは、鈴木選手を10年以上応援している女性ファンの方。ほとんど初心者でありながら、結果はハンデがあった鈴木選手の敗北に。「プロかと思う手も多かったです。感覚が良いと思うので、将棋始めたほうが良いですよ!」と鈴木選手も感心していました。

続く2戦目は、1戦目の温かな雰囲気から一変して真剣モードに。日本将棋連盟公認の将棋アプリ「将棋ウォーズ」で初段を持っている男子大学生と木村選手が対決しました。

序盤から木村選手が「うわー、すごいな」と思わず声を出すほどの実力者。「試合が始まっても緊張するのは、水泳と違うところですね。水泳は、始まってしまえば緊張しないので。内臓に悪いです(笑)」と木村選手が翻弄される展開になりました。

最後は木村選手が負け、「結構攻めたのですが、やられました。痺れる対局でした」とコメント。両者ともに果敢に攻める対局となりました。 一方で鈴木選手は、将棋教室に通っている中学生と対戦しました。差し手に迷いがなく、かなりの早いペースで進めるのを見て、鈴木選手も「上手いな」とポロリ。2戦目では終始両選手から「厳しいな……」という声が上がっており、トップレベルのアスリートが苦戦するという新鮮な一面が見られました。

ラスト3戦目、木村選手と「将棋ウォーズ」1級を持つ小学生が対戦。さすがのスピード感で、木村選手も焦っている様子でした。

最後は木村選手の時間がどんどんなくなっていき、さらに慌てる展開に。それでも参加者の子は勝ったものの「最初に攻め込まれてしまったので、反省したいです」と、すでに次に目を向けたコメントをしていました。

鈴木選手は、3戦目にしてようやく勝ててほっとする様子を見せていました。「時々すごく良い手があったのですが、最後に勝てたのでよかったです」

個人戦が終わり、いよいよ団体戦。話し合いの結果、大将戦は木村選手と鈴木選手の対局という結果に。

先鋒は、将棋経験のある小学生と中学生の対戦でした。かなり早いスピードで展開され、見ている周囲も驚きを隠せない様子。それぞれの実力をぶつけ合う対局となりました。その後順調に次鋒戦、副将戦が進んでいき、いよいよ大将同士の対局へ。チームのキャプテンとして、負けられない戦いが始まりました。

木村選手も鈴木選手も、お互いに掛け合いながら真剣な表情で対戦スタート。他の参加者らも、「今のナイスです!」「チャンスあります!」などと応援の声をかけていました。盛り上がる対決を最後まで見届けようと、最後は急きょ10分延長。鈴木選手が見事王手をとって勝敗が決まり、大将戦に相応しい名勝負となりました。

「アスリート個人の魅力も知って欲しい」

対局の後は、参加者からの質問タイムです。 「自分の好きなところは何ですか?」という質問に対して、「面白いこと、愉快なことを呼び込めるところかなと思っています」と木村選手が回答。それに対して鈴木選手も、「常に笑顔なところが素敵ですよね。ムードメーカーで、チームに良い影響を与えてくれる存在です」と反応します。木村選手の明るくて暖かい人柄が伝わった瞬間でした。

「2016年のリオパラリンピックのあとは『もうこれ以上頑張れないと思った』とご自身の著書にも書かれていましたが、その後どのように切り替えて東京パラリンピックへ挑んだのですか?」という質問も。木村選手はこれに対し「アメリカへの留学ですね。ここまでやっても金メダルに届かないなら、違う場所でやってみようと思ったのがきっかけです」とコメント。競技に向かうストイックな姿勢が垣間見えるやり取りでした。

最後に木村選手が「あっという間の楽しい時間でした。パラ水泳の選手は僕のように競技以外の趣味を持っている選手もたくさんいると思うので、ぜひ一人ひとりの選手について知ってもらえると嬉しいです。素敵な思い出を、ありがとうございました」と締めくくり、イベントは終了しました。

表彰式では、優勝した鈴木選手チームへ将棋の駒の盾が贈られました

「HEROsメンバー」でもある木村選手。以前のインタビューの際には、「パラアスリートとして発信すべきことは、競技力であり、競技としての魅力がメインだと思います。ただ、同時にアスリート個人の魅力も発信していきたいですね。そうすることで、より応援してくれる人も増えるのではないでしょうか」と話していました。

まさに今回のイベントは、その思いが体現されたイベントとなりました。パラ水泳の選手と、将棋を楽しむ。競技を離れた場だからこそ、選手一人ひとりの人となりや魅力がより伝わってくる時間だったと感じました。アスリートを知ることが、応援につながっていく。今後もHEROsはさまざまな活動を通じて、アスリートを取り巻く輪を広げていきます。