アスリートの社会貢献活動を推進するプロジェクト「HEROs」では、社会貢献活動に高い関心と意欲をもったアスリート同士が連携するために『HEROs メンバー』というコミュニティを設けています。HEROsメンバーはHEROsの取組や日本財団の様々な事業と連携し、アスリートによる社会貢献活動を推進していく予定となっております。

Bリーグ・三遠ネオフェニックスに所属する田渡凌(たわたり・りょう)選手は、現役のプロバスケットボールプレイヤーでありながら、障がい者支援をはじめとした社会貢献活動に精力的に取り組んでいます。2019年には、日本財団HEROs AWARDにも参加。その後も活動の幅を広げています。

社会貢献活動をはじめたきっかけや、社会と向き合うアスリートのあるべき姿について伺いました。

きっかけは「母の仕事」と「アメリカ留学」

僕の母親は、特別支援学校の先生なんです。小さい時から母が勤める学校の文化祭などに連れていかれて、障がいを抱える子どもたちの存在が身近にありました。

実際に施設で子どもたちと交流をすると、先生や親御さんのすごさが分かりました。

僕たちが子どもたちと接するのは1時間ちょっとですが、その間にも施設から脱走してしまう子がいたり。想像を絶するというか、本当に大変な仕事だなと。

社会貢献活動を始めたのは、アメリカ留学時代です。現地のバスケットボール部では、一定時間の社会貢献活動をすることがルールで決まっていました。僕は身体障がいを持つ子どもたちや、収入が低く生活環境に恵まれない子どもたちとバスケをしたんです。社会貢献活動に取り組むNBA選手も多く、SNSでも活発に発信していました。そういった環境にいたからこそ、僕も社会貢献活動への意識が植え付けられましたね。その頃から、自分も「プロとして影響力のある選手になれたら、自分のメッセージを伝えられる活動をしたい」と思うようになりました。

アメリカは、アスリートへ対するリスペクトが凄く高い国だと感じます。活動をしていることによってネガティブな意見はあまり出てこないように感じます。良いことは良い、悪いことは悪いといった感じです。

あとは、活動の伝え方が上手いなと思いました。活動だけを見せるのではなく、バックグラウンドなども含めストーリーを見せることでより深く活動の意義を伝えることができているのだと思います。そういった面で自分自身も、今後の活動の発信の仕方を考えていきたいなと思います。

バスケを通じて、チャンスを与えられる存在に

日本に帰国してプロになってからは、チームの取り組みの一環で、他の選手と一緒に派遣される形で活動をしていました。ですが、そこでやっていることと、自分が本当にやりたいことは違うなと。「どうせ活動するなら、自分からやりたいことができる場所を探したい」と思うようになりました。

障がいを抱える子どもたちと接するにあたって、気を付けなければならないことがたくさんあります。普段の自分と同じ感覚でコミュニケーションを取ったら、理解してもらえないこともあります。

僕自身、キャプテンになることも多かったので、相手に合わせた適切なコミュニケーションには自信があります。それでも、さまざまなバックグラウンドを持った子どもたちと接する時は難しい。踏み込みづらい部分もあるし、回数を重ねて、心を開いてもらうしかありません。

子どもたちとのコミュニケーションにおいて、自分が有名人かどうかは関係ありません。一人の人間として仲良くなって、似た生活を送る毎日の中で、少しでも楽しいと思える瞬間を増やしてあげたいと思います。

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活動の中で、難しさを感じることも多くあります。例えば、何かあったときのリスクマネジメント。知的障がいや身体にハンデを持つ子どもたちを試合に招待したことがあるんですけど、親御さんが一緒でなければ来れないご家族もありますし、会場はバリアフリーが整っている必要があります。試合中、僕はプレーに集中するので、チーム関係者からの協力も必要です。

子どもたちの対応は、ボランティアの方にお願いしています。どれだけ事前に準備をして、誰に何をお願いすれば、子どもたちに楽しい時間を過ごしてもらえるのかいつも考えています。

2019年には、自分が1番やりたいと思っていたチャリティーのバスケットボールイベントも実施できました。プロバスケットボール選手だけでなく、お笑い芸人や俳優やモデルの方にも参加していただいて、知的障がい者のチームと試合をしたんです。たくさんの方に助けていただきながら実現できて嬉しかったですし、もっと拡大させたいです。

今後は、孤児院やシングルマザーの子どもたちの支援にも取り組みたいと考えています。まだ日本では呼びかけるのにもハードルが高く、実行に移せていないのですが、ずっとやりたいと思っていたことの一つです。

以前、こうした状況に置かれた子どもたちは就職が困難で、路頭に迷ってしまうと聞きました。子どもたちを試合に呼ぶことで、選手だけでなく、スタッフやマネージャー、体育館の掃除をする人など、仕事はたくさんあるんだよと見せてあげたい。子どもたちの視野が広がるきっかけになればと思っています。

ちょっとした情報でも、それを知っているかどうか、体験したかどうかで全然違いますよね。バスケットボールを通じて、可能性やチャンスを与えられる存在になりたいです。

周りの目は気にせず、伝え続ける

2019年のHEROsAWARDに参加するまでは、他のアスリートの活動に正直全く興味がありませんでした。ですが、山下泰裕さん(認定NPO法人柔道教育ソリダリティー )の「柔道で育む国際友好プロジェクト」や、 元競泳選手・井本直歩子さんの「紛争・災害下の子どもの教育支援」など、世界規模の活動を知って驚きました。

それと同時に、バスケ界も頑張らないといけないなと。当時は活動している人はほとんどいなかったと思いますが、今は徐々に増えてきたので続けていきたいです。

アスリートは、ぜいたくな仕事だと思うんです。多くの人から注目されて、一本のシュートで歓声を浴びることができる。僕はすごく恵まれていて、キラキラした人生を送れていると感じます。皆さんからたくさんのものをもらえるからこそ、何倍にもして返していきたい。アスリートとして一生懸命プレーをするだけで、少なくとも見ている人へ喜びや元気を与えることはできると思いますから。

そういう意味で、社会貢献活動はプラスアルファの活動です。チームやリーグとして取り組めば影響力はありますが、強制してやらせるべきではありません。それでは意味が無いですし、相手にも失礼です。実際に活動をする中で気づきを得て、やって良かったな、またやりたいなとなることが大切なんじゃないかなと思います。

一方で、こうした活動に馴染みのないアスリートに社会貢献活動の大切さに気づいてもらうために、発信を続けていく必要があると感じます。伝えない限りは広がりませんから。

取り組む人が増えれば、自然と重要性に気づく選手も増えるはず。練習も私生活もちゃんとしているし、競技外の活動で文句を言われることは一つもやっていない。そんな自負があるので、周りの目は気にしません。自分が生きてきて必要だと思ったことをやるだけです。