「翼がゆく~スポーツの力を探る~」は、元プロバスケットボール選手の小原翼が、様々な分野に転身を果たした元アスリートに、インタビューする企画です。インタビューを通して、アスリートが何を考え選択し、歩みを進めているのかについて迫っていきます。第3弾として、今回は元Jリーガーで現在長崎地域電力株式会社に勤務している近藤健一さんと、上司の下田浩之さんにお話を伺いました。地元のチームV・ファーレン長崎で現役を引退し、一般企業に就職した元Jリーガーは、いつ何をどう決断し今に至っているのか、そして「アスリートならではの力」を紐解きます。

インタビュイー:近藤健一さん
長崎県出身。2002年からJ1のFC東京に4年間所属。2006年当時は九州サッカーリーグに所属していたV・ファーレン長崎に移籍し7年間在籍。現在は株式会社チョープロのグループ会社である長崎地域電力株式会社に勤務。5期連続で営業成績を達成するなど活躍している。

近藤さんプレー中
近藤健一さん<提供:本人より>

インタビュアー:小原翼
神奈川県出身。2017年~2021年までプロバスケットボール選手として活動し、2021年6月にBリーグ横浜ビー・コルセアーズにて引退。現在、日本財団HEROsでインターン中。

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(以下敬称略)

自分で考えながら歩み進んできた道のり

ーー引退までの道のりを教えてください。

近藤:2012年まで現役プレーヤーとしてV・ファーレン長崎に所属していました。2012年にチームはJ2に昇格しましたが、私は契約満了という形になりました。個人的には、「もう体がなかなか動かんな」という状態になって、もう現役は厳しいなという判断で、引退しました。

ーー今に至るまでの経緯を教えてください。

近藤:多分、私はゴールキーパーのコーチになるんだろうなと、ぼんやり思っていたんです。でも、引退が近づくにつれて、自分と向き合い、「自分は何をしたいのか考えないといかんな」というところにいきつきました。契約満了時に、2014年の長崎国体に向けてチョープロが長崎で競技と仕事の両立を目指す社員を募集していると聞き、チームを通じてお誘いを受けました。正直なところ29歳までサッカー一筋で、「社会のことはよくわかりません」という状態で、非常に未熟だなと感じていました。そんな中で、サッカー界の外に出て、会社や社会のことを学びながら、いち社会人として成長したいと思ったのがお世話になるキッカケでした。

ーー漠然とコーチという選択があった中、行きつかずにチョープロを選んだ理由は?

近藤:人に何かを教えるスキルは無かったと思いますし、あとは膝が痛くて。60歳くらいまでボールを蹴り続けられるのか正直不安がありました。

近藤さん対談

「コツコツ自分のやるべきことを積み上げてきた」

ーースポーツの経験が、今の社会人になって生きていると思った瞬間を教えてください。

近藤:私は器用な方ではないので、現役時代は自分がするべきことをコツコツ積み上げるタイプでした。今の仕事でもすべきことを軸に積み重ねていくことで、社会や会社に貢献できるんじゃないかなと思っています。

ーー下田さんから見て、近藤さんの働きぶりどうですか?

近藤:汗が出ますね(笑)

下田:彼は少し自分を謙遜するところがありますね。なかなか自分のことを良く言わないタイプですが、営業実績は5期連続で目標を達成しています。半期ごとに目標が設定されるので、間違いなくプレッシャーに感じているでしょう。でも、彼はコツコツやることでそこを乗り越えている。客観的に見て、スポーツの力が生きているんだろうなと思います。

そして、彼の良いところはお客様の立場になって物事を考えることができるところ。

やっぱりプロはお客様あってこその世界じゃないですか。現役時代もそこを考えながらプレーできる人材だったのではないかなと思うんですね。いくらスポーツが好きで能力が高くても、周りのことが見えず、自分のことばかりとなると、長続きしないだろうなと。今もお客様と同じ目線に立てているということは、培ってきたものがあると思います。

ーー現役中から、お客様・スポンサー様に対しての意識はありましたか?

近藤:あったと思います。FC東京でお世話になっていた時はチームにお客さんがいる状態が当たり前だったのですが、V・ファーレン長崎は設立から間もないチームで、あまり認知されていなくて。それでも応援してくれる方がいたので、「来てくれてありがとう」という気持ちはいつもありました。

ーー地元のチームを盛り上げたいという気持ちは強かったのですか?

近藤:強かったですね。私も力になりたいという想いはありました。Jリーグの良さは、スタジアムにお客さんがいっぱいいて、子どもたちがプレーをすごく楽しみにしている環境です。そういう環境って長崎にはなかったので、私も役に立ちたいという想いで、頑張ってこられたと思います。

近藤さんスリーショット

「過去にしがみつくのではなく、今と向き合っている」

ーースポーツに関わらず近藤さんの魅力を教えてください。

下田:彼は、サッカーをしていたことをあまり言わないタイプ、むしろ封印していたんじゃないでしょうか。初対面の方に「V・ファーレンにいたんですよ」って話題にしやすいじゃないですか。でも、正々堂々とイチ営業マンとして登場して、過去の良いところにしがみつくことなく、今と向き合っている。それはすごいなと感じます。リセットするパワーがあるということですよね。営業マンとしてゼロから積み上げて、今があるところは彼の魅力だと思います。

ーー自分がサッカー選手だと隠していた理由ってどういったところですか?

近藤:いや、あのー、恥ずかしいです。「サッカー選手の近藤です」ってなかなか言いにくいのもありますし、素の自分で行きたいなと。逆に、言って断られたら、ショックですよね。聞かれたら、「実は…」みたいな話はしてますけど(笑)

競技で身につけた競技の外でも通用するもの

ーー近藤さんのように一歩踏み出すにはどうしたら良いのでしょうか?

近藤:アスリートは勝利のために状況を判断して考えるということを繰り返しやっています。試合で力を発揮するために、いろんな準備をされていると思います。仕事でも、会社の利益やお客様に貢献するために状況を判断しながら自分たちのできることをやる。その点ではアスリートも会社員も共通項が多いです。もちろん会社ではプレーしませんが。ただ前もって準備することや、状況を見ながら判断していくということは一緒じゃないかなと。
だから、アスリートが競技を離れて仕事に就くのは難しいと言われますが、そうではないんじゃないかなと思います。「頑張るんだ」という気持ちや覚悟を持てば、活躍の場は広がるはずです。

ーーまさに自分の経験に基づいて応用するということですね?

近藤:そうですね。私も社会人としての基礎や知識が全くなかったので、教わりながらですが、皆さんの協力があり今の私があると思っています。

ーーアスリートの皆さんに対して引退が視野に入った時に、これだけはやっておいた方が良いということは?

近藤:自分が何をしたいか、とことん向き合うことかと。
そして、色んな人に話を聞く。情報収集ですね。私は荒木社長(株式会社チョープロ)や他の方に話を聞き、どんなことに貢献できるかを考えました。ネットだけでなく、人と会って話をするのは必要なんじゃないかなと思います。

近藤さん仕事

「パワーを貰える存在」

ーー現役の時に感じていたスポーツの価値と現在からみるスポーツの価値は?

近藤:現役の時は、熱中できる、1番を目指す、目標設定といったものがスポーツの価値だと思っていました。勝ち負けや、それまでの努力のプロセスを含めて良いものなんじゃないかと。
現役を離れて、テレビでスポーツ中継を見た時に、「現役選手ってすごいな」って率直に思いました。アスリートが自分のやりたいことを犠牲にしながらも一番を目指す姿は、私の気持ちも奮い立たせてくれて、パワーを貰える存在です。なので、頑張っているアスリートの皆さんには尊敬でいっぱいです。

ーー今楽しいですか?

近藤:(笑)(笑)(笑)
今楽しいですよ!(笑)
毎日がハッピーではないですし、波はありますが充実しています。

ーー最後に近藤さんにとってのスポーツとは?

近藤:私にとってスポーツとは、『真剣勝負の楽しさと厳しさを教わる場所』です。

近藤さん2ショット

あとがき

取材を通して、近藤さんのコツコツ努力を続ける姿勢、過去の自分にすがらず「今の自分」で道を切り拓いている姿に内なるパワーを感じました。
近藤さんは会社を通して地元に貢献するだけでなく、休日には積極的にボランティア活動もされていて、感服しました。
また、下田さんからは近藤さんの魅力をたくさん引き出していただき、客観的な視点でスポーツと社会の繋がりを感じることができました。

近藤さん、下田さんが私の質問にまっすぐに答えていただいたおかげで、非常に濃密な時間を過ごすことができました。この場を借りて、改めてお礼をさせてください。ありがとうございました。

次回の「翼がゆく~スポーツの力を探る~」は、現在スポーツウェアのデザインや企画、カメラマン、バスケットボール3×3の選手としてマルチに活動されている元プロバスケットボール選手が登場します。様々なことに挑戦し行動し続ける原動力に迫ります。お楽しみに!