著者:瀬川泰祐

今年プロサッカー選手として15年目を迎えた小池純輝選手。昨シーズンに加入した東京ヴェルディでは、キャリアハイの16ゴールを挙げ、今シーズンもチームの中心選手として活躍中だ。また国内のクラブに所属するプロサッカー選手と海外のクラブに所属する日本人プロサッカー選手が会員の「日本プロサッカー選手会」の副会長として、多くの選手たちを引っ張っている。

そんな小池選手はサッカー選手として活動をする傍ら、児童養護施設で生活する子どもたちの支援活動を行っている。今回は児童養護施設で生活する子どもたちの現状と共に、小池選手が行っているピッチ外の活動に迫ってみたい。

児童養護施設を取り巻く現状

児童養護施設とは、親からの虐待や親の病気、経済的理由など何らかの理由により親と一緒に生活することが困難になった2歳から18歳までの子どもたちが生活する施設である。厚生労働省が発表したデータによると、平成30年度時点で「保護者のない児童又は保護者に監護させることが不適当であると認められる児童」と言われる要保護児童約44,000人のうち、約25,000人がおよそ600ある児童擁護施設で生活をしているという。要保護児童数も児童養護施設入所者数も10年前と比較すると減少はしているものの、数多くの子どもが親と生活が出来ない環境に置かれているのが現状だ。

それに加え、10年前と比較をして児童虐待の数が大幅に増えている。平成30年度に全国の児童相談所にあった児童虐待に関する相談は約16万件だった。その数は10年前と比べ10万件以上増加しており、深刻化する児童虐待の防止を目的に施行された児童虐待防止法施行前の平成11年度と比較すると、約14倍に増加した。そんな虐待は児童養護施設に入所する理由の中で一番多いとされており、入所している子どもの内65%が虐待を経験しているという。そうした中で虐待の相談があった子どもの内、毎年2500名ほどが児童養護施設に入所しているというデータも出ている。

児童養護施設で生活する子どもたちと、一般家庭で生活する子どもたちとで大きく異なる点が一つある。それは高校卒業後の進路だ。中学卒業後の進路について、平成30年度で全中卒生の内99%が高校や専修学校に進学する中、児童養護施設の子どもたちの中学卒業後の進学率は96%だ。しかしこれが高校卒業を迎える時には、全高卒生の73%が大学や専修学校に進学していることに対して、児童養護施設の子どもたちの進学率は実に28%と大きな開きがあるのだ。さらに同じく親と暮らせず、里親の下で生活している子どもたちの進学率48%と比較しても大きな差が見られるのが現状である。

こうした現状を招いている要因の一つとして、親に頼れない環境下にいることが考えられる。児童養護施設の子どもは、原則として18歳になると施設を退所して自立をしなければならない。奨学金や自立支援制度はあるものの、親に頼ることが出来ない中で高額な学費を払いながら、自立した生活をしなければならないということが進学への大きなハードルとなっているのだ。

子どもたちとのふれあいの中から生まれた「F-connect」

こうした子どもたちと小池選手は5年以上向き合っている。横浜FCに在籍していた2014年にクラブスタッフに交流のある児童養護施設への訪問を依頼され、プライベートで梶川諒太選手(現:徳島ヴォルティス所属)と一緒に訪問することとなった。最初は「訪問をして少しだけ一緒にサッカーをすれば良いのかな」という軽い気持ちで足を運んだが、実際に施設に行ってみると、子どもたちからの熱烈な歓迎に驚かされた。さらに何度か施設訪問を行なっていると、サッカーの持つ力に気づかされた。2〜3名の子供と一緒にボールを蹴って遊んでいたが、自然とその数は増えていき、最終的には施設にいる子どもたちのほとんどが参加して、みんなでボールを追いかけていた。サッカーを終えた後、施設職員に「普段なら絶対にサッカーをやらないような子も一緒にボールを追いかけていて驚いた」と話をされて気づいたのがスポーツの力、そしてアスリートの価値だった。

小池選手はまるで昨日のことのように「僕自身がプロサッカー選手だからなのか、サッカーを楽しそうにやっていたからなのか理由は分からないが、そのとき、自分にもなにか彼らのためにできることがあるんじゃないかと感じた」と振り返った。

その後、子どもたちをスタジアムに招待すると、一生懸命に声援を送り続けてくれたことに感銘を受け、次第に、自主的にその施設に足を運ぶようになった。最初に交流した時は幼い子が多かったため、忘れられていないか不安があったという小池選手だが、その不安は再会を果たした瞬間に払拭された。子どもたちがはじめての時と同じ熱量で迎えてくれた喜びを経験し、フットボールを通じて何か子どもたちに出来ることがないかと梶川選手と考えて誕生したのが、「F-connect」の活動だ。

「フットボールで繋げる、フットボールが繋げる」をコンセプトに、フットボールコネクトの略として名付けられたF-connectは2015年から活動を開始し、現在は様々なクラブに在籍する8名の選手・元選手たちが中心となり児童養護施設の子どもたちへの支援活動を行っている。子どもたちが選手と触れ合うことで選手を身近に感じ、今度はその選手がスタジアムで一生懸命走っている姿を見てもらうことで、様々な理由から夢や目標を持ちにくい環境の中でも何か夢や目標を持つきっかけとなることがF-connectの支援活動を通して目指していることだ。

また彼らのこうした活動は、訪問施設の開拓からアポイントメント、試合招待の調整など必要な準備から、活動報告に至るまで全て選手自身で行っている。選手が主体的に行動しながら社会との接点を増やし、アスリートが抱える将来への不安を可能な限り取り除き、パフォーマンスの向上にも繋げていくという狙いがある。

実際、F-connectの活動を主導している小池選手は、「アスリートの価値やスポーツ・フットボールの価値を感じる瞬間があり、これがパフォーマンスの面で良い影響を与えてくれている」と口にする。さらに現役選手でいれるからこそ、子どもたちをスタジアムに招待してピッチでの姿を見せることが出来ると話す彼は「子どもを招待するからには『試合に出たい』という気持ちが生まれ、それがモチベーションになる」とその相乗効果も口にしている。

小池選手やF-connectの活動はこれだけに留まらない。まずはオンラインを中心にオリジナルグッズを販売し、そこで得た収益を運営費や子どもたちの招待費に充てている。さらにはF-connectをもっと多くの人に知ってもらうため、サッカーにまつわるイベントを中心に様々な場所にブースを出展することもある。実際にスケジュールが合う限りは小池選手などもブースに足を運び、多くの人と交流を図っている。

コロナ禍でHEROsとの連携が実現

そんな活動も、昨今の新型コロナウイルスの影響で、今年度に入ってからの施設訪問はオンラインのみとなっている。また子どもたちをスタジアムに招待することも難しい状況だ。しかし、そんな状況下でも「できる限りの社会貢献活動を」と現実に向き合いながら活動を続ける彼らの思いは、きっと施設の子どもたちにも届いているはずだ。

わたしたち「HEROs」プロジェクトは、彼らのようにアスリート・スポーツの価値を最大限に活かし、そこからスポーツマンシップを広げるアスリートが増えていくべく、活動を行なっている。そして、8月24日には小池選手を講師に招いて「HEROs LAB」の開催が実現した。

小池選手はこれまでスポーツを通して培った価値や経験を、未来の担い手となる中学生・高校生に向けて発信した。F-connectとHEROsとの連携が、この先どのような活動に発展していくのか、次の展開を楽しみにしたい。

なお、HEROs LABでは今後もアスリートとともに、中学生、高校生に向けたオンラインイベントを実施予定だ。今後のイベント内容や申し込み方法についてはHEROs LAB特設サイトからご確認いただきたい。