「ワクチン支援は自分への励み。僕が投げ続けて結果を残さなければいけない理由のひとつ」和田毅がプロ3年目から続けている社会貢献
2023/ 12/15
福岡ソフトバンクホークスの和田毅が、日本財団主催のアスリートやスポーツ団体による社会貢献活動を表彰するHEROs AWARD 2023を受賞した。和田は「認定NPO法人 世界の子どもにワクチンを 日本委員会」(以下JCV)を通し、プロ3年目の2005年からミャンマー、ラオス、ブータンなど開発途上国の子どもたちに感染症のワクチンを支援する活動を継続的に行っている。
これまで1球投げるごとにワクチン10本分を寄付するなど、独自のルールを設定し、支援したワクチンの総計は70万本分以上に到達。「このルールを自分の励みとして投げてきた」という。
自分が頑張った分だけ開発途上国の子どもたちを救うことは、「1本でも多くワクチンを支援し、一人でも多くの命を救えたら」と大きなモチベーションの1つになっている。近年、プロアスリートが取り組む社会貢献が日本でも注目を集めつつあるが、自身の影響力を世の中に還元する活動を積極的に行っている和田に社会貢献への思いを聞いた。
20年近く支援を続けてきた理由
――2005年から20年近くにわたり、70万本分以上のワクチンを寄贈し、開発途上国の子どもたちを救っています。
「支援をスタートした初年度に2、3歳だった子どもは、今は成人して20歳を超えているんだなと思うと、感慨深いですね。『今、何をしているんだろう』『スポーツをやっているのかな?』などいろいろ想像しますが、何よりも、今も元気にしてくれていたらという思いが強いです。ワクチンを受けた子どもたちが、それぞれ好きなことに打ち込めていたらこれほど嬉しいことはないです」
――継続的に支援されてきた背景にはどんな思いがあるのでしょうか。
「僕の中では(支援することが)特別なことだとは思っていないんですよ。ナチュラルに『何かできないかな』『何かしたいな』という思いから始まったもので、もしプロ野球選手になっていなかったとしても、どういう形であれ活動には携わっていたと思います。野球選手を引退した後も、今、設定しているルールをそのまま継続していくのは難しいですが、何かしらの形で携わりたいですし、携わらせてほしいと考えているんです」
――ワクチン支援を始めたのはプロ3年目ですが、それ以前から寄付や社会貢献活動に興味を持たれていたのでしょうか。
「小学生のころに赤い羽根共同募金を知りましたが、このお金はどこに行くのだろうと疑問に思ったことが最初のきっかけです。幼い頃は親にもらったお金で募金していたけれど、自分のなかでは『募金って自分が働いたお金でするものだよな』という考えがあって、なんとなくすっきりしなかった。社会人になって自分で稼いだお金で募金したときにどんな感覚を抱くんだろう、それを確かめたいと思ったのが入り口だったような気がします。
プロ野球の世界に入ってから、井口資仁さんや川﨑宗則さん、城島健司さんら社会貢献している人がたくさんいることを知りました。そういう姿を目の当たりにして、プロ2年目のオフあたりに自分も何かできないかと支援先を探していたんです」
――ワクチンへの関心を持ったのはなぜでしょうか。
「支援活動がしたいと思って球団に相談していたところ、JCVさんを紹介してもらいました。最初はDMをいただき、ワクチンが足りずに、世界では1日7000~8000人の小さな子どもたちが亡くなることを知りました。今の時代にワクチンが受けられないこと、それによって亡くなる人がいることを想像できなかったので本当にショックでしたね。ワクチン支援を始めたのは、まだ誰もやっていないことをしたかったから。自分の支援が何に使われるのか分かるのもよいなと思いました」
投手であることを生かした支援
――試合で投げた球数に応じてワクチンを寄贈するなど、独自のルールを設けています。
「ただお金を寄付するという方法は、どこか無責任で違和感がありました。僕はピッチャーなので、“投げる”ことを生かしたいと思い、投球数に応じてワクチンを贈る方法にたどり着きました。ワクチンは1本、数十円から100円程度することを聞いて、1球につき1本だとさすがに少ないので、1球ごとに10本のワクチンを支援することに決めました。さらに勝利したときには20本、完投は30本、完封は40本とか。後付けで優勝したら何本、タイトル獲得したら何本など自分たちでアレンジもして、自分への励みにもなるようにしていました」
――ご自身が設定したルールがプレーにもいい形でつながっているんですね。
「自分の結果が良ければ多くのワクチンを贈ることができますし、次のシーズンの自分の年俸アップにもつながります。裏を返せば、僕が投げ続けて結果を残さなければそれができなくなる。自分としてもワクチン支援は、『こんなに投げられたんだな』『来年はもっとこの本数を増やしたいな』と、昔も今もモチベーションの1つになっていますね」
――ワクチン支援を通じて、社会問題に触れる機会も増えたと思います。寄付活動を通して何か変化はあったのでしょうか。
「僕も子どもを持つ父親なので、世界のどこかで、ワクチンが受けられないために、毎日、幼い子どもたちの未来が奪われているのは本当に悲劇だと感じますし、同時に、日本がいかに恵まれているのかもあらためて痛感します。ワクチンがない地域で子どもを育てる親の気持ちを想像するだけで、本当に恐怖でしかない。こうした現状を知ることで、ワクチンの支援以外でも、虐待やいじめ、自殺など、子どもに関わる問題にはより目が向くようになりました」
子どもたちと一緒に楽しむ支援
――2014年から2シーズン、シカゴ・カブスでプレーされています。メジャーに行かれた際に日本とアメリカの寄付活動に対する考え方の違いは感じましたか。
「日本では寄付活動を特別視するというか、構える部分があるように感じます。どうしても重い空気になりがちなところがあったり。一方、アメリカでは普通のことだし、当たり前。カブス時代に何度か僕も参加しましたが、病気やケガの子どもたちを招待して会話したり、ゲームやダンスをして一緒に楽しむ。そうすると、子どもたちが自然と笑顔になっていく。そこにファンの人もいたりして、堅苦しい雰囲気はまったくありません。メインは“楽しむ”ということ。僕自身もアメリカでの経験から、そういう輪を広げていきたいなと考えていて、チャリティー活動を支援するNPO法人BLF(ベースボール・レジェンド・ファウンデーション)でのイベントを通して、そういった輪を広げていきたいと考えているんです」
――より多くの方に知ってもらいたいという思いはありますか。
「プロ野球選手などのアスリートのように影響力のある方が活動を行うことで、より多くの方の目に触れる回数は間違いなく増えると思うんです。そういった活動が気になっていたけれど方法が分からなかった人がアスリートを通して知ったり、賛同することもある。僕自身はこうした活動を長年継続することができて本当に良かったと感じていますし、多くの方々に知っていただいたり、賛同していただくことも嬉しいです。ただ、寄付やチャリティーは強制するものではなく、自発的に行うものだとも考えていて。だからこそ、僕らの発信を通して何かを感じたり、共感したり、興味を持っていただけたら嬉しいですね」
――今後の活動についてはどのように考えていますか。
「ワクチン支援を始め、様々な社会貢献活動を行っていますが、現時点ではこれが精一杯。今、携っていることは適当にはしたくないので。今は1本でも多くワクチンを支援したい、その気持ちだけ。どういう形態になるかは未定ですが、野球を辞めた後も、また新しいルールを作って、継続的に活動できたらと考えています」
制作:Sports Graphic Number/石井宏美/Takuya Sugiyama