2024年3月24日(日)、秋田県立武道館にて『第一回 監督が怒ってはいけない空手大会』が開催されました。秋田県内の8つの道場から、小中学生あわせて約70名が参加。空手界では初となる取り組みに、地元メディアや他競技の関係者が視察に訪れるなど注目が集まりました。

空手界初の試みに、秋田県内の道場から小中学生約70名が集結!

今大会を主催したのは、空手元日本代表の杉本一樹さんが代表を務める『ボランティア団体 ICHIGOICHIE』です。当日は杉本さんのほかに、副代表の飯作雄太郎さんが参加。同じく副代表を務める吉村郁哉さんからは、会場の子どもたちへビデオメッセージが届きました。

今大会を主催した杉本さん(左)と飯作さん
開会式では吉村さんからのメッセージが届けられた

ジュニアスポーツの課題「怒る指導のままでいいの?」

杉本さんが本大会を開催したきっかけは、バレーボール元日本代表の益子直美さん(HEROsAWARD2023受賞)が開催する『監督が怒ってはいけないバレーボール大会 』。怒りによる指導によって、子どもたちは委縮し、自身で考え動くことが苦手になっていきます。スポーツすることによって、自己肯定感が下がる、なんてことも起きるかもしれません。杉本さんは実際に益子さんの活動に参加し、そこで見た子どもたちの様子に感銘を受け、空手界での開催に向けて立ち上がりました。

杉本さん:「もともと空手界では普段から選手と監督の距離は近くなく、武道の精神から大きな声を出すこともあまり良しとされていません。コロナ禍も相まって子どもたちが試合中に気合いや応援の声を出す機会はさらに減ってしまいました」

大会のいちばんの目的は「子どもたちがのびのびと楽しむこと」。監督をはじめとした指導者の皆さんには、事前に大会の趣旨が伝えられました。杉本さんや飯作さん、そして大会の応援に訪れた一般社団法人 監督が怒ってはいけない大会で理事を務める北川新二さんから直接思いが伝えられたほか、益子直美さんからもビデオメッセージが届きました。

開会式であいさつをする北川さん
子どもたち、そして指導者の皆さんも益子さんのメッセージに耳を傾けました。

また今大会は、杉本さんの先輩で世界大会での優勝経験もある石塚明日美さんが、秋田での開催をサポート。「(自身が指導する道場の)子どもたちも楽しみにしている」と期待を口にし、会場には子どもたちが手作りした装飾が施されていました。

元日本代表のレクチャーは、指導者にとっても刺激的な時間に

午後の大会に先立ち、午前中は杉本さん、飯作さんの元日本代表コンビによる空手指導が行われました。杉本さんは中学生を、飯作さんは小学生を担当し、それぞれが豊富な経験に裏打ちされた実践的なレクチャーを施します。楽しそうに練習メニューをこなす子どもたちと共に、監督たちからも笑みが溢れていました。

飯作さんは子どもたちに向けて、「今日教えてもらったことを、どう試合に活かすのか考えながら続けることが大切」とメッセージを伝えました。

また杉本さんは子どもたちだけではなく、集まった指導者にも自身の指導法を共有。トップレベルの選手の指導を間近で体感する機会は、日頃から子どもたちと接する指導者にとっても貴重な学びになりました。

コミュニケーションが活性化する特別ルールとは?

午後になり怒ってはいけない空手大会がスタート。今大会は小中学生それぞれに分かれて団体戦形式で行われました。

監督が怒ってはいけない大会のルール
  • スポーツマンシップに則り、全力で楽しむこと
  • 試合中のミスはチャレンジの証拠
  • 試合中に怒ってしまった監督はバツ印がついたマスクを着用すること
  • マスクを着用した監督は指示出し禁止
  • 【特別ルール】試合中に会話ができるスペシャルカードを2回使用可能

そして、今回、特別に設けられたルールが「スペシャルカード」。背景には空手特有の試合形式がありました。

杉本さん:「通常の試合では、試合中に指導者から選手に声をかけることができず、フラストレーションが溜まってしまうケースも少なくありません。スペシャルカードを使うことによって、試合中のコミュニケーションが可能になりますし、試合中に気づいたことを前向きなメッセージとして伝えてもらうことが狙いです。」

今大会の特別ルールとして、監督は各試合中に2回スペシャルカードを使用することができます。カードが提示されると、試合は一時中断となり、監督そしてチームメイトが選手のもとに集まって声を掛けることができます。

実際、試合に出場した選手も「試合の途中でみんなが集まってきてくれるのが嬉しくて気分があがった」と笑顔を浮かべます。こうした特別ルールによって試合中の声掛けが増え、笑顔でプレーする選手の様子が多く見られました。

すべての試合終了後、中学生の優勝チームが、杉本さん・飯作さん・岩下さんのアスリートチームとのエキシビジョンマッチに臨みました。技術や体格差がある相手にも恐れることなく挑み続ける選手にはチームメイトから大声援が…!ポイントが入ると会場は大歓声に包まれました。

空手以外の競技からもアスリートが参加!子どもたちに特別なプレゼントも

この日、大会に参加したのは空手家だけではありません。さまざまな競技のHEROsアスリートの杉山美紗さん(アーティスティックスイミング)、宮本香怜さん(ゴルフ)、岩下達郎さん(バスケ)の3名が駆けつけました。

杉本さん:「他の競技の指導方法やアスリートと出会うことで、新しい発見が生まれます。他の競技の声掛けなどに触れる機会になることを目指して、HEROsアスリートの皆さんにも協力いただきました」

開会式でアスリートが登場すると、子どもたちは大盛りあがり。レクリエーションの〇☓クイズや準備体操などを通じて距離も一気に縮まり、多くの子どもたちから求められたサインや写真撮影に応じるなど、積極的に交流を行っていました。

また、HEROsアスリートからは子どもたちに特別なプレゼントも。大会を通して活躍した選手に、アスリート直筆サイン入りのTシャツが用意されました。

岩下さん:「ただ怒ってはいけないと押し付けるのではなく、どうして怒ってはいけないのか、という理由を子どもたちや指導者に説明することが大切だと思う。自分たちのような外から入ってきた存在がブースターとなって盛り上げることができて良かった」

過去の監督が怒ってはいけない大会にも参加経験のある杉山さん:「監督をはじめとした大人が率先して楽しんでる様子がすごく良かった。競技によって指導者の雰囲気や指導方針も違っていて、新たな学びを得ることができた」

杉山美紗さん
岩下達郎さん
宮本香怜さん
Tシャツにサインをする杉本さん

空手界初の取り組みから見えた光、活動をさらに広げていくためには?

空手界では初の試みとなった『第一回 監督が怒ってはいけない空手大会』は、大盛況のうちに幕を閉じました。

忍会総本部の鵜木秀和さんは、「こうしたイベントは初めてだったので、新鮮な気持ちで参加することができた。子どもたちも自ら率先して応援するなど、主体的な気持ちが全面に出ていて、普段はあまり見られない姿を見ることができた」と、大会を通した子どもたちの様子を振り返ります。

主催した杉本さんは、「こんなに皆さんが協力してくれるとは思っていなかった。伝統のある競技なので、怒ってはいけないという考え方にさまざまな意見があると思う。ただ、子どもたちはきちんと礼儀を大切にしたうえで、真剣にのびのびと試合に臨んでくれた」と、感慨深そうに話しました。

また、現地で大会を見届けた北川さんも、「選手たちやその保護者、指導者の方が楽しそうだったので良かったと思う。すぎちゃん(杉本)や飯作さんといった20代の若者が、開催したのも素晴らしいこと。今後どうより良い大会にしていくのかを楽しみにしている」と、大きな一歩を踏み出した活動にエールを送りました。

時代の変化にあわせ選手がのびのびとプレーできる環境づくりの重要性が年々高まっているなかで、選手と向き合う指導者の皆さんも子どもたちの心の成長に寄り添える声掛けを意識した指導にチャレンジする姿勢が求められています。

『ボランティア団体 ICHIGOICHIE』は、子どもたちに楽しくチャレンジできる環境を届けるために、全国で監督が怒ってはいけない空手大会の開催を目指して活動を続けていきます。