2023年3月20日、ぐんま国際アカデミー(群馬県太田市)にてHEROs LABが実施されました。

今回、ゲストとして登壇したのは先日、ボクシング選手としての現役生活にピリオドを打つことを表明した村田諒太さんです。2017年のHEROs立ち上げ期からアンバサダーを務めている村田さんは、昨年2022年の8月に行なわれた高校生ボランティアアワードで審査員として参加。そこで「日本財団HEROs賞」を受賞したのがぐんま国際アカデミーの3年生でした。その縁から、今回の訪問が実現。

当日は生徒達が学習成果を発表する年に一度の『アカデミックフェア』が開催されていた日。村田さんは午前中に各団体・生徒の発表ブースを見て回り、午後にはホールで生徒向けの講演会&ワークショップを実施しました。

テーマは、『犯罪を犯し少年院や刑務所に入った人の出所後の社会復帰について』です。

村田さんは大学時代の後輩が罪を犯し服役した経験から、出所者の更生ならびに服役後の社会進出の支援活動をサポートしています。犯罪の加害者の社会復帰の過程や出所後の社会の受け入れ体制などについてのサポートや大衆の理解は決して高くなく、結果として社会に馴染めず再犯に繋がることが一つの社会問題となっています。2020年の再犯者率は 49.1%と、1972年の調査開始以降過去最高となりました。

日常を過ごしていてもなかなか向き合うことがないこの問題について、高校生からはどのような声が出たのでしょうか。そして村田さんが送ったメッセージとは。

「生徒たちが自ら主体的に学習に取り組んでいて、とても良い学校ですね。子どもを通わせたいと思いました」

午後の公演までの約2時間、生徒たちの作品や研究発表が掲示されていたり体験講習が行われている教室を幅広く訪問。積極的に耳を傾け手を動かし、生徒たちと交流を深めました。特にこの『アカデミックフェア』において、社会問題に対しての研究や課題解決案の提示などが発表物の多くを締めており、見学を通じて新たな気付きや学びがあったと村田さんは振り返りました。

学校ならびに生徒たちのカラーを十分に肌で感じた後、「どういうディスカッションがされるのか楽しみですね」と期待感を持ちながらメインイベントへ。30分間、自身が出所者の社会進出のサポートを行なうまでの背景についての講演を行なった後、ワークショップへ移ります。

「出所しても働き先がない、住む場所もない、当然お金もない。でも食事をしなければ死んでしまう。となると再び犯罪を犯してでもご飯を食べようとする。犯罪は絶対によくないことですし、肯定もまったくできません。でも、心情的には理解できます。やはり再犯に走らないように、社会が出所者を受け入れる環境づくりが必要です」

生徒たちは村田さんのこの言葉に対し、これまでの人生で考えてこなかった新たな視点を与えられた様子でした。

「刑務所にいた人が社会復帰するためにはさまざまな課題があります。この問題の認知をどう広げていくか、各グループで考えてみてください」

講演会のファシリテーターを務めた大浦征也さん(株式会社PERSOL執行役員)からの声掛けで、各グループがディスカッションをスタートさせます。そして、20分ほどの議論を経て、いくつかのグループから発表が行なわれました。

最初のグループからは「被害者からの理解を得なければいけない。加害者を支援する活動をしても『被害者の心をわかっているのか?という』意見が出るので難しいと思います」という前提があった上で「被害者の理解を得た上で、(社会進出支援の)活動についてSNSを通じて発信していくことや、街中にポスターを貼って発信する」という案が出ました。

そして、その発信の中でも伝えていきたい要素として大きくウェイトを占める部分がありました。

「加害者にとっては被害者の言葉が心に響く。そういう方から社会で生きていく上でどういうふうにしてほしいか、という言葉は加害者の今後に影響してくるし、その言葉によって『こうしなければいけないんだな』と考えるようになると思います。だからこそ、被害者の思いを発信の中で伝えていくことは重要」というものです。

これについて村田さんは「僕は加害者寄りになってしまっていて、被害者の声を少し無視していた。しっかりそこも見直したい」と感心したと同時に、これまでの自身の考えを再度見つめ直していた様子。

現代の中高生らしく、SNSを使った発信施策は次のグループからも挙がりました。

「悪いことをしたかもしれないけど、自分を変えようと思ってる人もいる。でも、その人たちは社会から『戻ってきてはいけない』と思われている。受刑者の人たちは決して全員が『この後も悪いことをする』わけではないということを、SNSだったりYouTuberや著名人に協力してもらって、出所者の人たちも世の中に良い影響を与えられるようになっていることを伝えていって、世の中の偏見を変えていきたい」

また「釈放された人を支えるNPOを作る」という案もでました。そこでは「社会復帰ができるスキルを身に付けさせたり、更生をしたらその証明書を作って、就職に置いて不利にならないようにする」という具体案も。

短時間ながら生徒たちからは積極的かつ踏み込んだ意見が生まれ、社会課題に対しての理解と関心を深める貴重な機会となりました。そして最後に、村田さんからは今回のように『意見を交換し合う』ことの重要性が伝えられました。

「ディスカッションすることを大事にして欲しいです。言葉をみんなで共有し合うことが大事だし、それによって新しいものが生まれてくる。いろいろなアイディアを出し合ってより社会を良くしてもらいたいです」

新たな学びを得られたり、考え方が変わったり……とワークショップ後の心情の変化について様々な声が生徒からも挙がりました。

「受刑者の出所後というテーマは、普段私達があまり聞き慣れないものでした。ただ、これを話し合うことでいろんなことを考えられたんじゃないかなと思います。これから自分たちのアクションに変えていけたら良いなと、個人的には思いました。」(高校生女子)

「授業でも寄付活動に関わる機会はあるけど、難しい問題に対して考えることはなかったです。こういう問題に限らず、あらたな考え方を持ち続けて日々生活できればと思います」(高校生男子)

「難しい言葉ばかりだったけど、多用な視点が生まれたかなと思います。偏見を持っている人や持っていない人、様々な人達がいる世の中で私もその一員。いろいろと世の中のことを考えていこうと思いました」(中学生女子)

中でも印象的だったのは、高校生男子生徒の感想です。このディスカッションを通じて社会課題に対してのアクションへの感度が高くなったことが伺える言葉が発されました。

「自分は将来どういう職業につくかわからないけど、どの立場でも自分にしかできないことがあると思う。それを意識して、今より影響力を持って何かができれば良いなと思いました。」

HEROsとしての思い、そして村田さんがこの時間で伝えたかった思いはぐんま国際アカデミーの生徒たちにしっかり届いたことは間違いないでしょう。このワークショップに参加した生徒たちが近い将来、何か一歩踏み出すときにこの日のことを思い出してくれたら、これ以上の喜びはありません。