上段左から、髙橋さん、東さん、大浦さん、菅さん、下段左から瀬立モニカさん(パラカヌー日本代表)、豊島英さん(車いすバスケットボール日本代表)、根木さん
2022年11月5日に行われた『BEYOND STADIUM2022』と同日開催された『BOCCIA BEYOND CUP(ボッチャビヨンドカップ)』の様子をお届けします。
『BEYOND STADIUM2022』は東京都のパラスポーツ応援プロジェクト「TEAM BEYOND」がパラスポーツの魅力を伝えようと企画したイベントです。
そのなかで、計40チームがエントリーし、トーナメント形式で令和5年3月に開催される一般社団法人日本ボッチャ協会主催大会「ボッチャ東京カップ2023」への出場権を争う『BOCCIA BEYOND CUP(ボッチャビヨンドカップ)』が行われHEROsからもアスリートチームが参加しました。
ボッチャとは、ヨーロッパ生まれのパラリンピック種目。重度の脳性麻痺や同程度の四肢重度機能障がい者のために考案されたスポーツです。
激しい動きがないため障がいの有無、老若男女を問わず楽しむことができます。
そのボッチャを通して、健常者、障がい者の壁がなくなるきっかけができたように感じられる一日でした。
スポーツがコミュニケーションの架け橋に
HEROsチームには、根木慎志さん(元車いすバスケットボール日本代表)、東俊介さん(元ハンドボール日本代表)、菅和範さん(元Jリーガー)、髙橋優作さん(元フェンシング選手)、大浦征也さん(HEROs ACADEMIAモデレーター/パーソルキャリア)が入り、優勝を目指して一般参加チームと戦いました。
ボッチャは、激しい運動ではないものの、頭脳プレーや繊細なプレーが要求されるスポーツ。投球前に的となるボールの位置を確認し、どういうルートで投げるか。東さんや根木さんを中心に戦略を話し合う姿はアスリートらしい気迫のこもったものでした。
とくに、終盤になってくると試合は白熱。相手チームも戦略を練る時間が長くなってきます。HEROsチームを圧倒する投球をみせると、敵味方関係なく歓声が上がる場面も見受けられました。
残り少ない球数で得点圏を狙うHEROsチーム。思い通りにボールは進まず、相手チーム優勢のまま試合終了を迎えてしまいました。優勝しようと意気込んで戦った初戦でまさかの敗戦。試合後には「ボッチャ合宿をしましょう!」「練習しないとダメだ!」という声がすぐあがるほど、トップアスリートを引きつける魅力がボッチャにはあるようでした。
「ボッチャは競技として面白いなと感じました。なかなか思い通りに投げることはできなかったんですが、カーリングのようなゲーム性が奥深いなと感じました。ボッチャは、誰もが同じように楽しめるスポーツということも感じましたね。対戦したチームの方は上手でしたよ」(髙橋さん)
試合後は、短い時間だったものの相手チームとの交流を楽しむHEROsチーム。こういった交流ができるのもリアルイベントならではの醍醐味です。
トーナメントで勝ち進むことが出来なかったチーム同士での交流戦では、東さんを中心に一般参加チームとの交流を試合前から積極的にとっていきます。
どういうルートでジャックボール(目標球)を狙っていくかなど、普段からボッチャを楽しんでいるという相手選手からアドバイスをもらう場面も見受けられました。
「同じスポーツをコミュニケーションツールとすることで、交流しやすかったですね。彼らも同じ思いだったのではと思います。彼らのほうが僕らより上手だったので、話しやすくなったのかもしれません。
次は、うまくなりたいなという反面『うまくならないほうがいいのかな』という気持ちもあります。失敗したほうが面白いと思うところもあるので(笑)。 アスリートはどうしても勝ち負けにこだわってしまいますが、負けても楽しいのがスポーツの良さだとも思います」(東さん)
東さんをはじめ参加したHEROsチームのメンバー皆が、パラスポーツが障害の有無や老若男女関係なく共有できるコミュニケーションツールになるということを体感していたように思います。
「老若男女、健常者も障害者も一緒に楽しめる。パラスポーツのコミュニケーションツールとしての価値を感じる一日でした。
トップアスリートが一般の方、障がい者の方に敗れるというのは、面白みでもあります。それを体現できたのは、非常によかったのではないでしょうか」(東さん)
当たり前の世界がない。実体験の重要性
東京体育館の中には、ブラインドサッカーや車いすバスケなどのパラスポーツを体験できるコーナーもありました。
ブラインドサッカー体験では、菅さんを中心に皆がボランティアスタッフとのPK対決に挑戦しました。普段見えているはずの景色が見えない難しさを口にする場面も。
「パラスポーツは、障がい者でも子どもでもできることを実感しました。皆が同じ土俵に上がって、一人の人間として同じ戦いができるというのは素晴らしいですし、ハブになるようなスポーツだとも感じました。
また、ボッチャの試合では自分の投げたボールを拾いに行くときに、一緒に戦ったパラアスリートのボールも拾うという流れが自然とできていました。今回のイベントを通して、障がいの有無など関係なく受け入れるという理想の在り方を感じることができたように思います」(菅さん)
車いすバスケ体験では、車いすに座ったままシュートを狙うことに一同苦戦。
「根木さんのプレーを近くで見ていたのですが、実際に自分がやると全く届かなかったです。体の使い方が違うのだなと思いました」(髙橋さん)
体の使い方を工夫しながらゴールを狙う姿は、やはりアスリート。お互いに投げ方のアドバイスをしながら、ゴールを狙う様子からは団結力も感じられました。
アスリートからパラスポーツのイメージを変えていく
「みんなで一緒に楽しめたということはもちろんですが、競技の垣根を超えて、障がいの有無に関係なくひとつになれたと思います。HEROsはトップアスリートが揃っているので、会場を歩いていると一般の方から声をかけられることもありました。僕らが参加していることも、彼らのモチベーションにつながったのかなと感じました。
今後もHEROsとして、イベントに参加していくと思います。一般参加の方と交流することも重要な活動ですし、いろいろな競技で実施していきたいですね」(根木さん)
「今回、根木さんに誘ってもらって来たのですが、スポーツに関わっている人っていいなと。また参加したいなと思いました。こういった活動に取り組んだことがなかったからこそ、自分からアクションしていきたいです」(髙橋さん)
根木さんに誘われたのがきっかけと話しながらも、実際に行動することの重要性を感じていた髙橋さん。別のイベントへの参加も決めたようです。
「元アスリートとして、実際に足を動かして体験しなければいけないと感じました。もっと勉強していく必要がある、とも思いましたね。
今日のように、誰もが楽しめるところや勝負の厳しさを感じられるのは、スポーツの力です。それを、僕らアスリートから伝えることが大事だと思いました」(菅さん)
「僕らはHEROsという取り組みで、スポーツを通してどんなことをするかを考え、行動しています。今日感じたのは、スポーツをコミュニケーションツールとして活用するということです。出会った人たち、出会う人たちと友達になって、より良い社会をつくることに貢献したいと思います」(東さん)
今回の『BOCCIA BEYOND CUP(ボッチャビヨンドカップ)』を通して、参加したアスリートの皆さんは、縁の無いスポーツでも積極的に体験することと、それを自身が発信することの重要性を感じたようです。
アスリートのアクションを通じてパラスポーツや障がい者に興味を持つ人が増えれば、健常者と障がい者の垣根もなくなり、社会が多様性を受け入れる空気がより一層濃くなることでしょう。 パラスポーツとしてくくらず、健常者も障がい者も皆が同じスポーツを楽しむ。そのような未来が見える一日となりました。