<トップ写真:本人提供>

冨田真紀子さんは、現在フランス1部リーグでプレーしているラグビー選手です。中学3年生からラグビーを始め、高校時代から15人制及び7人制の日本代表で経験を積んできました。2017年にはラグビーにのみ集中するため、山口県のチーム「ながとブルーエンジェルス」に移籍。競技一本の環境に身を置いたことが、「競技以外でも活動して、繋がりを作りたい」という思いに繋がったと言います。

現在は、モザンビークやケニヤの女性に対してブラジャーを寄付する活動を行なっています。受け取った現地の人々は、衣服の製作に使用したりそのまま販売したりできます。女性から女性へ、売春以外で稼ぐきっかけを提供するのがこの活動の目的です。

もともとは、アメリカの非営利団体が取り組んでいた本プロジェクト「FREE THE GIRLS」。先導して日本からも参画しようと思った理由や思い、活動を通じた体感した“繋がる力”についてお伺いしました。

「冨田真紀子だから、できること」

私の友人が、性的虐待を受けていたことがあったんです。なので、「同じような経験をした女性に対して何かできないか」というのはずっと心のどこかにありました。

当時、怪我で東京五輪を諦めざるを得なくなり、チームでも結果が出せない状況が続いていました。自分の人生はこのまま終わってしまうんじゃないかと落ち込んでしまっていて。ちょうどその時、ニュースで「FREE THE GIRLS」の活動について知りました。もともとあった自分の中の思いと一致して、「今行動を起こせば何かが変わるのではないか。私にできることがあるのでは」と思ったんです。

ただの物資支援ではなく、「雇用を生み出す」という活動内容にも興味を持ちました。思いを形にできる、持続可能な活動。ビビッと来るものがありました。

アメリカでは、「ブラドライブボックス」というものが街中にあるんです。散歩に行くついでにブラを入れるくらいの感覚で活動に参加できます。それが調べても、日本にはない「なら私がやろう!」と、メールでプロジェクトを行なっているアメリカの非営利団体に連絡しました。大歓迎してくださって、すぐに一歩を踏み出すことができました。

アスリートの一声から、広がった輪

活動を始めて、想像以上に反響がありました。Instagramのリール投稿でも、25万回の再生回数を記録したんです。徐々に、1人ではまとめきれない数が集まるようになりました。

1人では負担しきれない配送料金になっていったので、切手という形で料金を集めることに。それも、12万円分くらい集まりました。1枚500円分くらいなので、数えるのが大変でしたね(笑)。

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郵便局に行き、配送へ。全てを切手で支払うことも一人では難しくなってくるくらいのたくさんの量
<写真:本人提供>

身近な人からも反応があって、今は高校時代の留学仲間が手伝ってくれています。他にも選手でイラストを描くのが好きな子が、作品の利益を活動の配送料として寄付してくれたり。

活動を通じて私を知り、ラグビーに興味を持っていただいた方もいます。逆にラグビーの試合会場で、ブラ回収ボックスを見かけて活動を知ってくださった方々もいて。自分の活動一つでいろんな人が繋がったり、いろんな人に新しい世界観を知ってもらえていること、こうして名前の通り「人を巻き込む」真紀子であり続けたいなと思っています。

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エコパスタジアムで回収するときに使用した、DIYしたブラボックス
<写真:本人提供>

ラグビーだけでは決して得られなかった繋がりができていくことに、やりがいを感じています。自分自身にとってもプラスな活動になっているなと。私のアクションひとつで繋がりが広がり、新しい何かが起こっていくことにワクワクしています。

アスリートとして、「結果を残すこと以外では恩返しできない」と思っていた部分があったんです。でも活動を通じて、「競技の結果以外にも、報われたと思える瞬間がある」と初めて感じることができました。

反響は大きかった一方で、「何きれいごと言って」などと言われることもあります。興味を持ってくれる方と、そうでない方とのギャップは今も感じています。

またコロナ禍だったので、活動を続ける難しさも感じました。だけど、だからと言ってこの活動を止めたら、想いは伝わらない。綺麗事だと思われないためには、ただ継続するしかない。やりたいからやり続けるしか、自分の思いは理解されないと思っています。

アスリートの強みは、純粋さ。楽しんで活動を続けていきたい

純粋にスポーツと向き合っているアスリートだからこそ、社会貢献活動も「あの人がやってるから参加してみたい」と思ってくれる人も多いと感じています。そこをうまく利用して、社会貢献を身近に感じてもらいたいです。気軽に取り組める環境を作ることで、より多くの人を巻き込めますし、アイデアが浮かぶと思うんです。

アスリートはスポーツを通じてファンの方も多いと思うので、人を巻き込むチカラは十分あると思っています。そこを存分に活かしていくアスリート仲間が増えたら嬉しいですね。

今後は、子供たちが世界に目を向けて多様性に触れられる場を作っていきたいと思っています。現在も中学生を対象に、日本語ではなく、英語を使った交流会を月に数回開催しています。例えば、世界のことをいろいろみんなで調べてみたり、視野を広く持つきっかけになれればいいなと。

参加した子供たちが世界を視野にアンテナを張ってくれるようになれば、10年後世界を舞台に活躍しているかもしれません。そうなることを願っています。これからも楽しく、私らしく、活動を続けていきたいですね。

※本取組はアスリートの社会貢献活動を表彰する『HEROs AWARD』の2021年度、チーム・リーグ部門で最終候補としてノミネートされました。

受賞した取り組みはこちら↓

https://sportsmanship-heros.jp/award/