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2020/10/15

「目標を失った学生アスリートたちのために」 元ハンド主将・東俊介さんが用意した最高の舞台

「目標を失った学生アスリートたちのために」 元ハンド主将・東俊介さんが用意した最高の舞台

著者 : 瀬川泰祐(HEROs公式スポーツライター)

新型コロナウイルスの影響により、あらゆるスポーツ大会が中止となった。特に多くの学生アスリートたちが地区大会や全国大会など節目となる舞台を失い、気持ちの整理がつかないまま引退を迎えた学生アスリートも多い。そうした状況の中、全ての最高学年の選手たちに「人生最高の環境一生思い出に残るような舞台」を提供すべく、元ハンドボール日本代表キャプテンでHEROsアンバサダーをつとめる東俊介さんが立ち上がった。The beginning cup - 終わりではない!始まり!-』(以下:ビギニング・カップ)と題し、中学生から大学生まで最高学年が在籍するハンドボールチームを対象にした大会を開催したのだ。今回はこのビギニング・カップが開催されるまでの道筋、そして919日に開催されたこの大会のレポートをお伝えする。

奪われた晴れ舞台

新型コロナウイルスの大流行、そして未曾有の緊急事態宣言で、学校が臨時休校となり、部活動やクラブチームは、活動の中断を余儀なくされた。学生アスリートたちは自宅でできるトレーニングをこなしながら再び自分の努力の成果を発揮できる日が来ることを待ちわびていた。しかし前述の通り、全国中学生体育大会やインターハイといった全国大会、そして、そこに向けた地区大会が中止となってしまった。彼らは新型コロナウィルスによって、晴れ舞台を奪われてしまったのである。

今回ビギニング・カップに出場した高校3年生のある男子選手は「最後に思い切りハンドボールに取り組むはずが、コロナによって出来なくなってしまいました。このまま終わってしまうことがとても残念だった」と話すように、やりきれない思いをしている学生アスリートたちは多くいたはずだ。そんな彼らに対して何かできないかと考えた東さんは、「数あるスポーツの中からハンドボールを選び、頑張ってきてくれた若者たちの気持ちに寄り添えるように」とこのビギニング・カップの開催を目指すことを決意した。

紆余曲折の末に作り上げた最高の舞台

東さんの思いを形にするべく、日本ハンドボール協会や、日本ハンドボールリーグ所属チーム、男女の現役日本代表キャプテンなど多くの協力が集まった。この大会を開催するためには、開催費用・社会情勢・安全対策・当日の運営など、クリアすべき課題は山積みだったが、これらの課題を解決すべく、さまざまな企業や団体のサポートを受けてクラウドファンディングを実施し、運営費を募ることになった。すると200名を超える支援者から、約130万円もの資金が集まり、ようやく開催までこぎつけた。「超えるべきハードルが多々ある中で挫けそうになったこともあった」と東さんは振り返るが、こうして多くの人々の協力によってビギニング・カップは開催日を迎えることができたのである。

迎えたイベント当日、男女3チームずつ計6チームが東京・有明のセガサミーアリーナに集結。“ハンドボール人生史上、最高の環境”で試合を行うことができるよう、国際大会基準のハンドボール専用コートが準備されたほか、さまざまな施策が用意された。まず演出面では、全国大会やトップリーグのようなプロのアナウンスと東さんの解説、DJによる音響など試合を盛り上げるための工夫が施された。さらにはこの日の思い出を最高の形で残せるよう、ワールドクラスのスポーツカメラマンによる試合風景の撮影も行われ、選手たちにとってまさしく最高の環境が整えられた。この大会に参加した高校3年生の女子選手は、「コロナの影響で公式試合がつぶれ、引退試合も正式にはできない中、諦めの気持ちを持っていたが、偶然ビギニング・カップを発見してエントリーすることを決めた」という。そんな彼女は、「引退試合だけが全てではないが、それでも最後の集大成として何か自分の努力が表せる場所や、これまで支えてくれた親たちにも記録として見せてあげられる機会が本当に欲しかった。私たちのチームは全国大会に出場するような強豪ではなかったため、『このような最高の環境で試合ができる機会は人生でここしかない!』と思い応募させていただいた」とこの大会にかけた思いを口にした。

東さんが若者たちに伝えたかったこと

このビギニング・カップは学校やチーム単位で参加ができなくとも、中学生・高校生・大学生で最高学年の選手が一人でもいれば自由にチーム編成をして参加できるというエントリー条件を設けたことで、さまざまな年代の選手たちが集まった。試合が始まると選手たちは世代を超え、“最高の環境”でハンドボールを愛する仲間たちと一緒にボールを追いかけ、ゴールを目指してはつらつとプレーをした。また東さんの試合解説の中で、「卒業後は就職して両親へ恩返しをします」(大学4年生男子)といった、参加チームの選手たちから届けられた保護者や恩師など、支えてくれた人々へのメッセージが読み上げられる粋な演出もあり、素晴らしい雰囲気の中で試合が行われていった。

試合が終わると、東さんは、挨拶に訪れた選手らに対し、「つらい思いをたくさんしたと思うけれども、こうして君たちのことを思い、『何かをしたい』と協力してくれた人たちが世の中にはたくさんいるということを分かってほしい」とメッセージを送った。さらに、「将来、つらい思いをしている子どもたちがいたら、君たちがしてもらったように何かをしてあげられる大人になってほしい。今回生まれた感謝の気持ちや思いを未来へつなげていってほしい」と人の力になることの意義も併せて伝えられた。また試合後、選手たちからは「目標を見失っていた中で迷いがあったが、大人の協力があったおかげで練習に打ち込むことができた」(中学3年生女子)、「競技生活が終わったという実感がなかったが、今日で大学受験に向けて区切りをつけることができた」(高校3年生男子)などそれぞれの思いが語られ、大会は勝敗を超えてそれぞれの選手たちに最高の思い出を与えて、幕を閉じた。

この大会の成功が教えてくれたこと

この大会は、日本財団ボランティアサポートセンターからも数名のスタッフが派遣されるなど、多くの人の善意で成り立っていた。「つらい思いをしている若者たちの気持ちに寄り添いたい」という東さんの思いと、その思いに共感した人々の情熱が形になったビギニング・カップの成功は、わたしたちに大切なことを教えてくれる。一人ひとりができることは限られていても、一人ひとりの小さな行動が集結すれば、多くの人を救う力が生まれるのだと。

スポーツには、人の心を動かす力がある。アスリートには社会を変える力がある。今回の東さんのようにアスリートが先頭に立って、社会で起こっている課題に対して声を上げることの意義はとても大きい。この記事を読んだあなたも、アスリートたちの声に耳を傾け、彼らの思いに巻き込まれながら、クラウドファンディングへの支援やボランディアへの応募など、自分にできることを探してみてはいかがだろうか。

著者 : 瀬川泰祐(HEROs公式スポーツライター)