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2021/01/26

ゴルフ界から初受賞 有村智恵の活動の変遷から学ぶ社会貢献のポイントとは?

ゴルフ界から初受賞 有村智恵の活動の変遷から学ぶ社会貢献のポイントとは?

著者 : 瀬川泰祐(HEROs公式スポーツライター)

アスリートやスポーツ団体の社会貢献活動を表彰するHEROs AWARDの受賞活動を紹介する本企画。2020年に「HEROs OF THE YEAR」を受賞した本田圭佑選手の「AFRICA DREAM SOCCER TOUR supported by SHOWA GLOVE」に続き、今回はゴルフ界から初受賞となった有村智恵選手の活動を紹介する。彼女が長年続けてきた子どもたちの夢を叶えるプロジェクト「智恵サンタ」や被災地支援に目を向けながら、彼女の社会貢献活動の変遷に追ってみたい。

「気づき」からの変化と、彼女の根底にある変わらないポリシー

競技としての露出が多く、高額な賞金が与えられるゴルフ選手は、一般的に恵まれた環境にあると考えられている。他競技のアスリートとの交流を通じて、そのことに気づいた有村選手は、自身の活動をもっと社会に還元していかないといけないと考えるようになった。そんなとき、彼女が高校時代を過ごした“第二の故郷”宮城県を最大震度6強の地震が襲った。2011年の東日本大震災だ。この災害を目の当たりにし、「お世話になった地域に何かしたい」と、震災前後の大会で得た賞金を寄付することを決意。その後継続した社会貢献活動を行う彼女にとって、大きな一歩を踏み出した瞬間だった。

そんな有村選手が、いまから6年ほど前より毎年行っている活動がある。「智恵サンタ」というプロジェクトだ。このプロジェクトは、子どもたちから寄せられた夢を有村選手が叶えるというもの。これまで、「一緒にゴルフ練習を行いたい」といったゴルフにまつわるものだけではなく、クリスマスパーティーの実施、水族館やテーマパークの訪問など、子どもたちが抱く夢をたくさん叶えてきた。


このプロジェクトついて有村選手は、「『願っても夢が叶わない』と思う子どもが増えたように感じていた。そのような子どもたちに、“強く願えば夢は叶う”ということを体験してもらい、夢を持つことを諦めずに生きて欲しいという気持ちから始まった」とこの活動のきっかけを口にする。

また、智恵サンタの活動をスタートする前から行っている、東日本大震災で被害を受けた学校への訪問活動は、時間の経過とともに内容を変化させてきた。訪問をスタートした当初は震災によって環境が激変した子どもたちの笑顔を取り戻すことを目的に、スポーツ交流や、スナックゴルフセットの寄贈といった活動を行っていたが、最近は震災の記憶がない子どもたちが増えたことに気づき、夢や目標を見つけることの大切さを伝える授業を実施するようにしている。

このように何かに気づいて活動を開始し、活動の中で得た気づきを元にその内容を変化させてきた有村選手。しかし、その様々な活動の根底を支えるのは、「アスリートは人に夢・希望を与えられる職業である」という彼女の考えるスポーツマンシップだ。

故郷・熊本での被災経験を通じて起きた意識の変化

このように自身のポリシーに基づいて、積極的に社会貢献活動を行っている有村選手だが、活動を始めた当初は、他の活動と比較されることや、非難にさらされるリスクを恐れ、自らの活動を発信することができなかった。そんな彼女の気持ちを変えたのが、故郷・熊本での被災経験だ。有村選手をはじめ多くの女子プロゴルファーたちが熊本県内で行われる大会を翌日控えた中で起きた熊本地震。最大震度7を観測し273名もの命を奪った未曾有の大災害により、予定されていた大会は全て中止となった。このときに著名人やアスリートたちが発信した被災地・熊本へのエールが有村選手の大きな支えとなった。当時のことを「物資支援はもちろん、彼らが熊本を思っているという言葉が本当にありがたく、生きる活力をもらうことができた」と振り返る。彼女はこの経験を通して、アスリートが社会貢献活動をし、その情報を発信することで、社会にポジティブな影響を与えることができるのではないかと考えた。アスリートである自分に新たな価値を見出したのである。

以来、有村選手は自らの活動をメディアのみならず、SNSなどを通じて積極的に発信し、多くの人に活動への参加を呼びかけている。当初は身内だけで小さく始めた活動も、今では支援の輪を大きく広げることに成功した。智恵サンタプロジェクトでは、夢を叶える子どもの数が増えたほか、熊本地震を風化させないために行っているチャリティーオークションでは、2017年には約45万円だった支援金は2019年には約150万円まで増加するなど、地域の枠を超えた活動に発展している。

日本の女子プロゴルフ界に起きつつある変化

HEROs AWARDの授賞式でプレゼンター務めた笹川順平・日本財団常務理事が「アスリートの持つ知名度や発信力を生かして、支援の輪を広げるリーダー役を担ってきた。また個人の集まりでまとまった活動が難しい女子プロゴルフ界の中でも、多くの女子ゴルファーやファンを巻き込み、社会貢献の輪を広げてきたスポーツマンシップを高く評価した」と話したように、彼女の活動は、アスリートの価値を使って支援の輪を広げることに成功した好例と言うことができるだろう。


今後、彼女に期待したいのが、日本ゴルフ界の社会貢献活動のさらなる活性化だ。アメリカのプロゴルファーは、アスリートである前に一人の人間としてふるまう文化があり、選手たちによる社会貢献活動が積極的に行われている。有村選手はアメリカでツアーに参加した際、そのような文化に触れて衝撃を受けた。「文化の違いはあるものの、アメリカでは私と同世代の選手たちが素晴らしい活動をしている。日本人も同じように活動をしていきたいと思った」とアメリカでの経験を口にし、一昨年より日本女子プロゴルフ協会のプレーヤーズ委員長として新たな活動に取り組んでいる。

日本ゴルフ協会には1000名以上の選手たちが在籍しているため、先述の笹川常務理事のコメントにもあったように、全員で一致団結してアクションを起こすことは難しい。その環境下でも有村選手は、プレーヤーズ委員長としてゴルフ界の関係構築を行い、社会貢献活動に活かしている。こうして生まれた活動が「ladygo.golf」だ。このladygo.golfは、“女子プロゴルファーによる公式共有Instagramアカウント”を通じた情報発信のプロジェクトだ。有村選手と数人の選手たちで始めたこのプロジェクトでは、選手たちの特技やオフの素顔を発信してファンに喜んでもらうのはもちろんのこと、普段は注目されにくい選手たちの社会貢献活動を発信することで、女子ゴルフ界の発展、そして社会貢献活動の拡大を目指している。すでに4万人ものがフォロワー登録をし、彼女たちの発信に注目している。有村選手は、自身の経験を踏まえ「社会貢献活動を自ら発信することをためらう人も多い。代わりに発信する場所を作り、多くの人にその活動を知ってもらえるような場にしていきたい」と、ladygo.golfを通して、女子プロゴルフ界の社会貢献活動を広げていくことへの思いを語った。

活動の継続とその先に目指すもの


2020年は新型コロナウイルス流行の影響で大会が中止となるなど、ゴルフ界に従事する人たちは大きな打撃を受けた年となった。またこのコロナ禍で「計画していた活動がほとんどできなかった」と有村選手が振り返ったように、彼女の社会貢献活動も大きな影響を受けた。しかし苦境の中でも彼女はできることを探し、活動の足を止めずに前を向いた。まず有村選手をはじめ男女プロゴルファーたち5名が発起人となりトーナメント従事者たちを支援するためのクラウドファンディングを実施し、900人を超える人々から3340万円もの寄付を集めることに成功。さらに有村選手は、自身の友人であるアメリカの女子プロゴルファー、ダニエル・カン選手が始めた「@challengeeachother」というチャリティー活動に参加し、活動を日本で広める役割を担った。これはゴルフクラブでリフティングをしてボールをポケットに入れる動画に「@challengeeachother」とタグ付けをして投稿することで、新型コロナウイルスの影響を受けている人々への食の支援をするというものである。実際に有村選手が日本において初めて投稿したことで瞬く間にこの活動が広がり、武井壮さんなどもチャレンジするなど、大きな話題を呼んだ。

苦境に直面してもその歩みを止めることはなかった有村選手。

「活動を継続していくことが、メッセージ性としては一番強い。2021年は社会の情勢に合わせながら臨機応変に活動を行っていきたい」

こう語る有村選手は、視線の先に明るい未来を見据えている。日本のゴルフ界におこった新たな社会貢献活動は、この先彼女を中心に、どのように発展していくのか。有村智恵選手の周辺からますます目が離せなくなってきた。