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2020/09/23

元なでしこジャパン・近賀ゆかり選手が社会貢献活動を行うワケ

元なでしこジャパン・近賀ゆかり選手が社会貢献活動を行うワケ

著者 : 瀬川泰祐(HEROs公式スポーツライター)

なでしこジャパンの「2011 FIFA女子ワールドカップ」優勝は、東日本大震災からの復興を目指す日本国民に勇気を与え、スポーツの持つ力を世に示す象徴的な出来事となった。その影響は、国内リーグの観客動員数や競技人口数の増加となって表れた。しかし、そんなブームも長くは続かず、女子サッカー界はいまも低迷から抜け出せていない。

当時のワールドカップ優勝メンバーの一人である近賀ゆかり選手(オルカ鴨川FC所属)は、世界各国のクラブを渡り歩く中で、アスリートの社会貢献活動を目の当たりにし、日本と海外の違いを強く感じたという。今回は、日本の女子サッカー界が置かれている現状とともに、彼女の経験や思い、そして彼女が参加している「なでしこケア」の活動に迫りたい。

ワールドカップ優勝で巻き起こった女子サッカーブーム

ワールドカップ優勝、そして翌年のロンドンオリンピック銀メダル獲得と、たて続けに好成績を残したなでしこジャパン。そんな選手たちのプレーを一目見ようとなでしこリーグには、数多くの人々が押し寄せた。ワールドカップ前年の2010年に912名だった平均観客動員数は、2011年に過去最多となる2,796人を記録。中でも近賀選手、澤穂希選手、川澄奈穂美選手など、当時のなでしこジャパンのレギュラー選手が数多くが在籍していたINAC神戸レオネッサは2011年に8,871名という、現在では想像することができないような数字を叩き出した。しかし、熱しやすく冷めやすい日本人の特性を表すかのように、その後の観客動員数は右肩下がりに転じる。2015年のワールドカップ準優勝による一時的な増加はあったものの、2018年にはリーグ全体で平均1,414名まで下がってしまっている状況だ。

近賀選手の原点にあるのは海外での経験

現在も、実力では世界の女子サッカー界をリードする日本だが、海外と比較をすると、選手たちを取り巻く環境は大きく異なる。その相違点の一つに、女子アスリートの社会貢献があるという。

イングランド、オーストラリア、中国と3カ国のクラブを渡り歩いてきた近賀選手は、イングランドの名門・アーセナルFCレディース時代の経験をもとに「チームウエアを着て訪問に行くというだけで、小児病棟に入院をしている子どもたちやその保護者に大きな喜びを与えることができた」と語るように、海外では女子選手たちも、積極的に社会貢献活動を行なっているというのだ。

アスリートが社会貢献活動を行うことは、自分やチームのことを知ってもらうきっかけとなる上、相手にとっても喜びが生まれることから、相互にとってメリットがある。近賀選手は、このことを体験し、同時にアスリートの価値の大きさに気付いたという。また海外に比べて日本はまだまだアスリートが社会貢献する意識が薄いことに対し、日本女子サッカー界全体で取り組むべき課題と捉えるようになった。

そんな中、フランスでのプレー経験を持つ大滝麻未選手(ジェフユナイテッド市原・千葉レディース所属)が創設者となり「なでしこケア(以下なでケア)」を設立。近賀選手も理事として参加している。なでケアは、女子サッカー選手が抱える女子サッカーへの想いや社会への思いを形にするために生まれたプラットフォームだ。

普及活動においては、特に中学年代のプレー環境の改善を目指している。中学年代になると男子と女子では徐々に体格や体力の面で差が出てくることもあり、女子チームは男子チームと比較すると3%しかないと言われている。選手の受け皿がないため、13歳になった女子選手の5人に1人がサッカーを諦めている現状があるのだ。こうした問題を地域と連携して打破し、一人でも多くの女子選手が大好きなサッカーを続け、平等にプレーすることが出来る環境を整えることを理想としている。

また、なでケアの活動は、サッカー界だけに留まらない。社会課題の解決に向けて「いつでも手を差し伸べ、社会にもっと寄り添う存在になる」ことを目標に掲げている。そこにはなでしこジャパンが世界一になった際の経験がある。それまで未勝利だったドイツやアメリカといった強豪国を倒して優勝を成し遂げた裏には、日本から選手に与えられた応援の力が大きかったという。「日本に元気を与えたいという一心で戦った。でも、優勝することが出来たのは自分たちでの力だけではない。『見えない力が本当にあるんだ』と感じた大会だった」と近賀選手は振り返る。

このような経験から、彼女らは、病気と闘う子どもたちや保護者を応援することを目的に小児病院への訪問を行っている。この訪問に参加した選手たちは、「前向きに笑顔で頑張る子どもたちや保護者の姿からたくさんの勇気と笑顔をもらった」とその相乗効果を口にしている。

こうしたなでケアの活動は、アスリートにとってのキャリア構築の場としても捉えられている。勉強会を重ねながら、自身のマインドセットを変え、一人の人間としての自立を目指す。参加した選手たちからは「未来のアスリートのために今できることや、私たちだからこそ発信できるメッセージを伝えていきたい」、「一人ではできないことも、周りを巻き込むことで作れるものや伝えられるメッセージがあると思う。お互いに協力しながらより良い活動にしていきたい」といった声が上がっている。

なでケアとHEROsの連携も

このように、スポーツ・アスリートの価値を上げながら、社会貢献を続ける近賀選手は、今後の抱負を次のように語る。

「選手を身近に感じてもらって『応援したい』という気持ちが少しずつ大きくなっていくことで、女子サッカーの価値も上がっていくと思う。小さいことかもしれないが、少しずつでもその活動を続けていきたい」。

そんな近賀選手は、アスリート・スポーツの価値を最大限に活かし、アスリートの社会貢献を推進するHEROsでアンバサダーを務めている。825日に開催された「HEROs LAB」でも講師を務め、スポーツを通して培った経験や価値を中学生・高校生に発信した。

HEROs LABに登壇した近賀ゆかり選手

また、近賀選手がアンバサダーを務めていることがきっかけで、なでケアのワークショップが日本財団ビルで開催されるなど、なでケアとHEROsとの連携も徐々に生まれている。

今後なでケアがどのように社会に変化をもたらしていくのか。今後の動きに注目したい。

著者 : 瀬川泰祐(HEROs公式スポーツライター)